指示待ち社員はなぜ生まれるのか|「自分で考えて行動できる社員」がいない本当の理由【シリーズ第1回】
「自分で考えて動ける社員がいない」。多くの経営者やマネージャーが抱えるこの悩みの裏には、「指示を待つ」ことが合理的な選択になってしまう組織の構造があります。あらゆる課題が山積みの現代にあって、自律的に働く社員はどの会社も喉から手が出るほど欲しい人材です。一方で、現場に目を移すと、目につくのは「指示を待つ社員」ばかり。シリーズ【“自分で考える社員”はどこにいる?】第1回ではそんな状況ができあがってしまった理由について考えます。
目次を開く
「自分で考えて行動できる社員」が欲しい!
自分で考えて行動できる社員(自律型人材)の特徴は、大きく3つに分類できます。目的の咀嚼力、仮説の構築力、全体最適の視点です。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 目的の咀嚼力 | 上司から指示されたタスクの表面的な作業(What)を機械的にこなすだけにとどまらず、その背景にある組織の共通目的や経営戦略(Why)を自分なりに解釈し、「何のためにこれをやるのか」主体的に考えられる能力 |
| 仮説の構築力 | 現場で何らかの課題に直面した際、上司に対して単に「どうすればいいですか」と疑問を丸投げするのではなく、現状のデータ分析と、それに対する自分なりの代替案(仮説)を常にセットにして打診できる能力 |
| 全体最適の視点 | 自分の担当領域や所属部署の短期的な利益(部分最適)を越えて、組織全体、あるいは最終的な顧客価値の最大化(全体最適)の観点から、「今何をどうするべきか」を自ら判断して動くことができる視座の高さ |
かつての上意下達の組織であれば、1人のリーダーの指示と判断に、他のメンバーが従うだけで結果を出すことができました。しかし時代は変わり、リーダーと同等の意思決定ができる人材がいなければ、現場が回らなくなっているのです。
マネージャーは、猫の手も借りたい
なぜなら経営者はもちろん、各部署のマネージャーも、とにかく忙しいから。
出口の見えない人材不足に加え、課長がプレイングマネジャーとして働いている企業は98%にのぼるという調査もあります。彼らはただでさえ高い自分の業績目標や担当の大口顧客を抱えながら、並行してチームの管理を行わなければなりません。
加えて、上層部から突きつけられる短期的な成果と納期のプレッシャーにより、部下が試行錯誤を繰り返すことで生じる「手戻りコスト」を許容する余裕は、ほとんど残されていません。そのため、メンバーの失敗を静観する精神的な余裕は極限まで削られています。
だからこそ、マネージャーたちはどうしても過干渉になりがちです。なぜならまだ未熟な段階で裁量権を与えれば、自社だけでなく、取引先にまで多大な損失を出しかねないからです。実際に「思い切って任せてみたらとんでもないことになったから、もううちのメンバーには任せられない」というトラウマに近い経験をしたマネージャーも多いかもしれません。
つまり部下には自律的に動き、現場の課題を自走して解決して欲しい。しかし一方で、トライアンドエラーの中でゆっくりと育ってもらうほど会社に余裕はない。その結果マネージャーたちは、「自分で考えて行動できる社員が欲しい」と嘆きながら、立場上細かな指示出しや先回りをしてしまうのです。
だから「指示を待つ」が合理的なスタンスになる
皮肉なことに、このようなマネージャーのやむにやまれぬ対応は、もともと自分で考えて行動できるはずだった人材さえも、「指示を待つ社員」に作り変えてしまうリスクがあります。というのも、従業員にとって「指示を待つ」こそが合理的な選択になるからです。
ダブルバインドが引き起こす、主体性の喪失
文化人類学者グレゴリー・ベイトソンらが1956年に提唱した「ダブルバインド(二重拘束)」とは、2つの矛盾したメッセージを同時に受け取ることで、どちらを選んでも身動きが取れなくなる心理的なジレンマ状態のことです。このような状況におかれると人は「何をしても否定される」という強い心理的ストレスから、強烈な混乱、自己否定、主体性の喪失といったネガティブな思考に陥るとされています。
上司から「もっと自分で考えて新しい提案を持ってこい」と言われた部下が、一晩中頭を悩ませて代替案を作成し、打診したとします。ところが上司は、部下の提案書をまともに見ようともせず、明らかに不機嫌な表情でため息をつき、面倒くさそうに机の隅へ押しやりました。
この時、部下は言葉を信じて提案し続ければ「不機嫌や冷遇という罰」を受け、上司の態度を恐れて提案をやめれば「主体性がない」と叱責を受けるという、逃げ場のない板挟み(ダブルバインド)に陥ります。
自分で考えて動いても、自分で考えずに指示を待っていても、いずれにせよ叱責や失敗という痛みを受けるなら、心理的コストが低いのは後者です。だからこそ「どうしたらよかったのか?」と混乱と自己否定を繰り返し、最終的にはこれ以上の精神的ダメージを防ぐための最も心理的コストが低い自己防衛策として、自律的に働くことをやめてしまうのです。
“認知のズレ”が生む、無意識の反発
また、ここにはマネジメント層にとって回避するのが難しいバイアスが影響しています。
多くのマネージャーは、「上司とは、良かれと思って常に部下に正解を教え、導かなければならない存在である」という役割意識に知らぬ間に強く縛られています。
そのため、部下から純粋な事実ベースの異論やフラットな改善提案があっても、自身の脳内で「自分の管理能力が足りないと言われている気がする」「自分のやり方が間違っていると思われているのだろうか」と上司としてのプライドへの反発が無意識のうちに起きてしまうことがあるのです。
この時、双方の間で認知のズレが生じています。つまり、上司側は「上の意見や決定に従順であること」を常識、礼儀と捉えがちであるのに対し、自律的な意識を持つ部下側は「組織の成果や顧客価値のために、不都合な事実であっても率直に述べること」を誠実さ(礼儀)であると考えます。
そのため、上司は部下の提案内容の良し悪しを検証する前に、「態度が気に入らない」「順番が違う」という無意識の反発で議論に先入観を持ってしまいます。
これはマネージャーが人間である以上、逃れるのが難しい認知の仕組みです。しかしこのようなバイアスにマネージャーが抗えないのであれば、その結果としてメンバーがダブルバインドに陥り、主体性を失っていくのもまた、構造上仕方がないと言えるのです。
はじめの一歩は、個人からシステムへ視点を移すこと
主体的な行動が、リスクになっていないか?
組織行動論の「組織的沈黙」研究(モリソンとミリケン、2000年)は、声を上げるのは得策ではないという認識が、職場での経験を通じて集団的に共有されていくと論じています。つまりダブルバインドや上司が無意識のうちに起こす反発といった経験は、部下の脳内で「異論を唱える・提案をする=心理的生存リスク」として記憶されるのです。
こうなると、問うべきは「部下に主体性があるか」ではありません。問題の本質は、社員個人の資質や能力、モチベーションの低さではないからです。考える必要があるのは「部下にとって主体的にふるまうことが、その組織で安全な行動になっているか」です。
そこを見直さずに「主体性発揮研修」などを実施しても、効果は限定的です。研修で「自分の意見を持とう」と学んでも、戻った職場で主体性を発揮することが部下にとって“危険な行動”のままなら、正解の選択肢は相変わらず「指示を待つこと」だからです。
コミュニケーションの履歴を更新する
事態を解決する糸口は、視点を個人からシステムに移すことで見えてきます。なぜなら社員個人という表層の下には、「深層①:システム」「深層②:身体的・精神的な歴史」「深層③:時代精神」という3つの層が隠れているからです。
| 層 | 具体例 |
|---|---|
| 表層 | 社員個人 |
| 深層①:システム | 評価制度、与えられたKPI、職務記述書 |
| 深層②:身体的・精神的な歴史 | 上司とのコミュニケーション、過去のトラウマ、成功体験、家庭環境の記憶 |
| 深層③:時代精神 | 脱成長、タイパ、資本主義への諦め |
この中で企業や上司が更新できるのは、深層①と、深層②のうち上司とのコミュニケーションの部分までですが、指示を待つことしかしなくなった人材を、自ら考え行動できる人材に変えていくには十分です。
まずは“第一声”を変えてみる
深層①へのアプローチも重要ですが、上司個人が今すぐ始められるのはコミュニケーションの履歴の更新です。しかしここまで見てきた通り、マネージャーも余裕のある状況にあるわけではありません。そのため、まずは第一声を変えてみるところからはじめてみましょう。
つまり、部下が異論や別案を出したとき、最初の言葉を「なるほど」に変えることです。「いやそれは」「でもな」といった否定の言葉ではなく、内容の良し悪しをジャッジする言葉でもなく、部下の発言を一度受け止める言葉を使うのです。
もちろんこれだけで、部下が見違えるように主体性を持つわけではありません。この4文字の目的は、部下の自律性を上げることではないからです。真の目的は、まずマネージャー本人がどれほど早く部下の発言をジャッジしようとしているかを自分で観察することです。
この小さな一歩こそが、組織に「自分で考えて行動できる社員」が生まれるはじめの土台になるのです。
まとめ:問うべきは部下の主体性ではなく、組織の安全性
ここまで読んで「いや、それでもうちの社員は、自分の頭で考えて動こうとしない」と思う人もいるかもしれません。当然です。本稿で見てきたのは、環境によって主体性を失った人材の話です。一方で、もともと自分で考えて動くことが苦手な人材がいるのも事実です。
シリーズ【“自分で考える社員”はどこにいる?】第2回では、単に何も考えていないだけの社員と、コミュニケーションの履歴の更新やシステムの修正で本来の能力を発揮できる社員の見分け方について考えます。









