シニアフリーランスが「使えない」のは“個人のせい”?ーー経験知を活かす組織のつくりかた

シニアフリーランスが「使えない」のは“個人のせい”?

経験と知識が豊富なシニアフリーランス。しかし一方で発注をする企業側には「年齢が高くなると、社内メンバーとうまくいかないことが多い」と消極的になるところも少なくありません。でもそれって本当にシニアフリーランス本人や、彼らと同じチームになった従業員など“個人のせい”なのでしょうか?

人生100年時代という言葉が現実味を帯び、多くのシニアが「もう少し働きたい」と希望する一方で、深刻な労働力不足に悩む企業は外部の専門人材を求めています。働きたい人と、働き手を探している企業。両者の利害は本来、一致しているはずです。

ランサーズの「フリーランス実態調査2024」によれば、国内のフリーランス人口は約1,303万人、経済規模は20兆3,200億円に達しました。働く意欲の高いシニア層も多く、同社による「次世代シニアの働き方実態調査」(2019年)*では、85.9%が今後もランサーズを継続利用したいと回答し、87.3%が65歳を超えても働きたいと回答しています。

※ランサーズにフリーランスとして登録する50歳以上の個人606人を対象とした調査

同調査で「現在の生活のモチベーション」について尋ねたところ、最も多く挙げられたのは「お金が貯まること・得ること」。次いで「新しく知識を得ること」「クライアントに喜んでもらえること」が続きます。収入の確保だけでなく、前向きな動機も上位に入っているのです。

ところが、彼らを受け入れた企業の現場からは、不協和音とも呼べる声が漏れてきます。

「期待して起用したのに、若手と衝突してしまう」
「指示が出しづらく、誰も話しかけない」
「プロジェクトの中で孤立し、フェードアウトしてしまった」

プラスに働くはずの経験が、むしろマイナスに働いてしまう……この現象の原因を、シニアフリーランス本人や、彼らと同じチームになった従業員など、個人のせいにしていないでしょうか。本稿では、この「宝の持ち腐れ」を生むメカニズムを様々な研究結果から解き明かし、シニアフリーランスを真の戦力に変える組織の作り方を提案します。

年下上司と年上部下の組み合わせは“必ず”失敗する?

年下の現場責任者と、年上のシニアフリーランス。場合によっては双方に30歳以上の年の差があることも少なくありません。シニア側に専門的な経験がある一方で、予算・納期・意思決定の権限は若手マネージャーが持っている。このような状態を、組織心理学では、

  • ステータス不一致
  • 年齢逆転

などと呼びます。一般的にこの2つが揃うと、上司と部下の関係はギクシャクしがちと思われています。実際、オランダの建設会社で、従業員と直属上司295組を分析した研究では「年下上司と年上部下の年齢差が大きいほど、上司が部下の専門性と組織への理解力・協調性を低く評価する傾向がある」という結果が出ています。

しかし一方で、北欧を含む複数国のICT分野で働く上司・部下394組を対象とした別の研究では「良質な関係が築けていれば、年齢差が評価へ及ぼす影響は小さくできる可能性がある」という見解も示されています。

いずれの研究も、主に組織内部の上司・部下関係です。業務委託で参画するシニアフリーランスに、これらの結果をそのまま適用できるわけではありません。それでも、年齢や経験の差だけを機能不全の原因と決めつけるべきではない、という点が重要です。

ではシニアの経験知を活かせず、むしろ機能不全を起こしてしまう組織の問題は、どこにあるのでしょうか。まずは以下の2つのミスを、自分の所属する組織が犯してしまっていないかをチェックしてみましょう。

“活かせない組織”がやりがちな、2つのミス

「何を任せる人か」を定義できていない

シニア人材の活用で起こりやすい失敗は、「経験豊富だから、何か役に立ってくれるだろう」と曖昧な期待だけで依頼することです。経験知がある=どんな状況でもパフォーマンスが出せるということではありません。「何を任せる人か」がぼんやりしたままでは、優秀なフリーランスでも成果を出すのは困難です。

品質トラブルの原因分析を任せるのか。
若手技術者の設計レビューを担ってもらうのか。
重要顧客への提案前に、リスクを洗い出してもらうのか。
あるいは、経営層が見落としている現場課題を指摘してもらうのか。

責任範囲が定まっていなければ、現場はシニアに何を相談してよいのか分からず、本人もどのような立場からどんなパフォーマンスを出せばいいのかを判断できません。結果として、「期待したほど動いてくれない」「口は出すが責任は負わない」といった不満が生まれやすくなります。

逆に、任せる課題と成果物が明確であれば、年齢や社内序列に左右されず、専門性に基づいて動きやすくなります。どの課題について、どんな成果を出す専門家を求めているのか。それをできる限り具体化しておくことが、シニアフリーランスに限らず、外部専門人材にオファーを出す際の前提条件です。

「経験者なら説明不要」と思い込む

もう一つの落とし穴は、「経験者なら自走できるはずだ」という思い込みです。確かに、シニアフリーランスは特定領域における専門知識や判断力を備えているかもしれません。しかし、専門性があることと、企業それぞれの文脈を直ちに把握できるかどうかは別問題です。

社内で長く働く人同士であれば、「前回と同じ流れで」「あの部署には先に話を通しておいて」といった短い言葉でも通じます。ところが外部から参加する人材にとっては、意思決定の順序、関係部署の力関係、暗黙の品質基準、過去の失敗の経緯などは見えません。

「業界の常識」「どの会社も似たようなもの」。こうした認識が実は自社特有の文化であることは珍しくありません。にもかかわらず「経験者なのだから分かるはず」と任せてしまえば、本人の能力に関係なく、成果は不安定になります。パーソル総合研究所によるミドル・シニア社員に関する調査では、40代〜60代の部下の活躍を促す行動として、

  • 仕事の仕方への尊重や裁量の付与(40代〜60代)
  • 定期的な会話(主に50代)
  • 上司の自己開示(主に60代)

などが示されています。同調査は社内人材を対象としたものですが、「任せること」と「必要な背景を言葉にして伝えること」を両立させることが重要なのは、外部のシニア専門人材に対しても同じです。

海外の先進事例──ボッシュ「BMS」の仕組みに学ぶ

シニアフリーランスの経験知をしっかりと活かせる組織づくりのために参考になるのが、ドイツ発のグローバル企業であるボッシュです。同社の特徴は、シニア専門人材と仕事・企業を“つなぐ”仕組みをあらかじめ整えている点です。

ドイツ・ボッシュ「ボッシュ・マネジメント・サポート(BMS)」

ドイツの自動車部品大手ロバート・ボッシュは、退職した熟練人材を社内外のプロジェクトに派遣する子会社、BMSを1999年に設立しました。現在ではドイツを起点に日本を含む計10カ国で展開し、退職した熟練人材を社内外のプロジェクトに柔軟に派遣する仕組みとして定着しています。日本でも2010年に制度が始まり、2020年からは社外への派遣も開始されました。

同社から学べるのは、シニア人材の経験を、曖昧な「ベテランの助言」として扱っていない点です。

つまり、「経験のある人をとりあえず入れる」のではなく、「この課題には、この経験を持つ人が必要だ」という形で、人材と仕事を結びつけているのです。実際、日本のBMSでは、制度開始から11年時点で200件以上のプロジェクトに人材を派遣していました。

対象となった案件は、

  • 新社屋の建設
  • 全社ITシステムの更新
  • 大型試験室の新設
  • テストコースの拡張

などがあり、専門知識だけでなく、複数の関係者を調整する経験が求められる仕事も含まれています。電動化モーターの開発プロジェクトに携わった元社員が、その経験をもとに社内研修の講師となり、知識を他部門へ広げていった事例もあります。

仕事と人材をつなぎ、経験知と次世代人材をつなぐ

ここで重要なのは、シニア人材が単なる「過去の経験を語る人」ではなく、現在進行中の課題に関わり、その成果や学びを次の世代の人材へつなぐ存在として位置づけられていることです。もちろん、BMSは主に元社員を対象とした人材派遣制度ですから、社外のシニアフリーランスを業務委託で迎える場合と、まったく同じにはなりません。

むしろ、社外人材を迎える場合には、BMSの仕組みに加えて、

  • 自社の意思決定の流れ
  • 関係部署の役割
  • 過去のプロジェクト経緯
  • 暗黙になっている品質基準

といった文脈まで、意識的に共有する必要があります。それでも、

  • 本人の専門性を可視化する
  • 必要な業務とマッチングする
  • 業務内容や条件を事前に合意する
  • 得られた知見を組織内へ還元する

という考え方は、外部のシニア専門人材を活用する企業にとっても、大いに参考になります。「経験者だから、何か役に立ってくれるだろう」と迎えるのではなく、「この課題を解決するために、この経験を持つ人へ依頼する」。

ボッシュのBMSが示しているのは、経験知を組織の力へ変えるためには、本人の能力を問う前に、経験が活きる役割とシニア人材をつなぐ仕組みを用意する必要があるということです。

明日から取り入れられる、3つの設計コンセプト

ボッシュのBMSのように、専門人材を登録し、必要な案件へマッチングする大規模な制度を、すぐに整えられる企業ばかりではありません。しかし、制度そのものを再現できなくても、シニアフリーランスの経験知を活かすための考え方は取り入れられます。

以下ではシニアフリーランスを受け入れる際に企業が取り入れたい、3つの設計コンセプトを紹介します。

①「経験豊富な人」ではなく「特定の課題を任せる人」として依頼する

シニアフリーランスに依頼する際は「経験のある人」ではなく、「具体的な課題を解決する人」として役割を定義することが重要です。たとえば、

  • 新製品の量産前に、品質上のリスクを洗い出してもらう
  • 若手担当者が作成した設計案を、月1回レビューしてもらう
  • 重要顧客への提案前に、技術面・運用面の懸念点を整理してもらう
  • 過去に繰り返している不具合について、原因分析と改善案を提出してもらう

といった形です。そのため、依頼前に以下の内容を明確化しておくことをルール化しましょう。

  • 解決したい課題は何か
  • どの成果物を出してもらうのか
  • どの会議・工程に参加してもらうのか
  • どこまで提案し、誰が最終判断を行うのか
  • いつまで、どれくらいの頻度で関わってもらうのか

役割が明確になるほど、シニアフリーランスは専門性を発揮しやすくなります。また、現場の若手責任者にとっても、「年上の経験者を管理する」という心理的な負担ではなく、「この課題に必要な専門家と協働する」という関係へ切り替えやすくなるはずです。

②「任せること」と「説明しないこと」を混同しない

どれほど経験豊富な人材でも、初めて関わる企業の社内事情までは分かりません。そのためシニアフリーランスが、専門的には正しい提案をしても、その企業の現実に合わない判断をしてしまう可能性があります。その結果、現場からは、

「正論だけれど、うちでは実行できない」
「前提を理解せずに話している」
「経験者なのに、現場のことが分かっていない」

と受け取られかねません。しかし、それは本人の能力不足ではなく、企業側が必要な情報を共有していないことに原因がある場合もあります。「説明しなくてもわかって欲しい」は怠慢です。自社の業務を棚卸しし、以下のような情報を事前に共有しておきましょう。

  • プロジェクトの目的と現状
  • 関係部署と意思決定者
  • 過去に起きた失敗や対立の経緯
  • 顧客や社内が重視している判断基準
  • 相談・確認・承認を行う際のルート
  • 社内で使われている専門用語や独自ルール

シニアフリーランスに必要なのは、社員と同じように細かく管理されることではありません。必要な情報を受け取ったうえで、自らの専門性を使って判断できる環境なのです。

③「安く使える人材」ではなく、「専門性に見合う条件」で迎える

シニアフリーランスに、誰でも担える定型業務ではなく、長年の経験を要する品質判断、技術レビュー、トラブルへの対応、顧客との折衝、知識の継承といった業務であるなら、その価値は「年齢」ではなく「専門性」で判断されるべきです。

もちろん、企業が相手の言い値で報酬を支払うべきだという話ではありません。重要なのは、必要な局面を切り出し、必要な期間だけ、専門性に見合う条件で依頼することです。条件とはすなわち、以下のような項目です。

  • 委託する業務の内容
  • 成果物と完了条件
  • 契約期間と稼働の目安
  • 報酬額と支払期日
  • 情報共有や会議参加の範囲
  • 守秘義務や情報管理のルール
  • 成果を社内へ還元する方法

とりわけフリーランスへ業務を委託する場合は、フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)の遵守も求められるため、上記の項目の明確化は必須です。

何を任せ、どこまで関わってもらい、どの成果に対して、どのような対価を支払うのか。その条件を明確に設計することが、本人の納得感を支え、企業側にとっても成果を評価しやすい関係につながります。

まとめ:「シニアフリーランスを活かせる組織」が人材不足を乗り越える

人材不足が深刻化するなか、企業に求められているのは、単に採用人数を増やすことだけではありません。

すでに豊富な経験や専門性を持ち、必要な場面で力を発揮できる人材と、どのようにつながるか。そして、その知見を一時的な助言で終わらせず、組織の成果や次世代の育成へどう結びつけるか。そこに、これからの人材活用を考えるうえでの重要な視点があります。

シニアフリーランスは、企業にとって「安く使える人材」でも、「とりあえず相談できるベテラン」でもありません。どれほど経験豊富な人材であっても、役割が曖昧で、必要な情報が共有されず、専門性に見合う条件も整っていなければ、十分な力を発揮することはできません。

その結果だけを見て、「シニアフリーランスは使えなかった」「年上の外部人材は扱いづらい」と判断してしまえば、企業は本来活かせたはずの経験知を、自ら手放すことになります。外部にある経験知を、必要なタイミングで、適切な役割と条件のもとに活かせる組織こそが、慢性的な人材不足時代を乗り越えていけるのです。

シニアフリーランスを「使える」「使えない」で判断する前に、自分たちが「シニアフリーランスを活かせる組織」になっているかを、まずはチェックしてみましょう。

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執筆者
鈴木 直人

あらゆる文脈で急速に「人である価値」が問い直される時代に、企業と人材の関係性の変化を探求中。現場の実践知と経営視点、ときにアートや歴史、科学の分野も渉猟しながら、新たな視点を掘り起こす。ライター歴12年。分野横断の取材を行う。