2026年8月1日付で株式会社うるるの執行役員CHROに就任する太田昂志氏。前編では、AIが勧めた「アクセンチュアに残る道」を選ばず、 変革の当事者になる道を選んだ意思決定とキャリア観を伺いました。うるるは、入札情報速報サービス「NJSS」をはじめ、AIとクラウドワーカーの力を組み合わせた独自のCGS(Crowd Generated Service)を展開し、労働力不足の解決に取り組む東証グロース上場企業です。
後編のテーマは、「AIの活用を前提としつつ、AIに依存しない」人的資本経営の実践論です。AIに何を委ね、何を人が担うのか。その基準づくりから、仕事を棚卸しし、人事制度から変え、現場の声を聞く。そして最後に、雇用関係の有無を越えて、外部の働き手とどのように価値を共創し、成長機会や関係性を築くのかという、これからの組織競争の論点に迫ります。
太田昂志氏プロフィール

システムインテグレーター等を経て、株式会社ゆめみに入社。CHRO、取締役、上席執行役員を歴任。その後、アクセンチュア株式会社との経営統合を主導し、統合後はプリンシパル・ディレクターとして、組織人事・チェンジマネジメント領域のコンサルティングに従事。2026年、株式会社うるるに入社。執行役員CHROとして人事領域全般を管掌。
AIを仕事に「ふりかける」のか、「炊き込む」のか

— 太田さんは「AIの活用を前提としつつ、AIに依存しない」ということを掲げられています。AI万能論でもAI懐疑論でもない、第三の道のように感じました。まず定義から教えてください。
まず「AIの活用を前提とする」とは、何でもいいからAIを使えばいい、という意味ではありません。
DXが注目されたときも、「DXごっこ」が蔓延しました。とにかくツールを導入しましょう、という類の話ですね。あのとき、変われた会社と変われなかった会社を分けたのは、デジタルを前提に、どんな価値を顧客に提供するのかから逆算し、製品・サービスやビジネスモデル、業務、組織、プロセス、企業文化・風土まで見直せていたかどうかでした。
たとえるなら、デジタルやAIを「ふりかける」のか、「炊き込む」のかの違いです。炊き込みご飯にできた会社は変われた。ふりかけご飯で終わった会社は変われなかった。AIの活用を前提とするとは、経営全体を、AIを前提に本来どうあるべきかから見直すことです。
一方で「AIに依存しない」は重要で、仕事の目的や意思決定、そしてその責任をAIに委ねてはならない、という話です。
会社として何を大切にするのか。限られた資源をどう配分するのか。そして、その結果に対する責任は誰が担うのか。これらはAIではなく人が担わなければなりません。私のキャリアも、AIに委ねていたらアクセンチュアに残っていましたが、AIはその責任は取ってくれません(笑)。
問われているのは、AIを使うか、使わないかではありません。AIに何を委ねて、何を委ねないか。責任の所在も含めて明確に線引きすることが、今後すべての仕事に必要になると思っています。
迷いの正体は、判断基準と責任の所在が言語化されていないことにある
— その線引きこそ、多くの現場が迷っているところだと思います。この業務はAIに任せてよいのか。経営側も、任された側も迷っている。
まず仕事をざっくり分けると、情報を集めて整理・分析し、選択肢を出す部分と、その選択肢をもとに意思決定して実行する部分に分けられます。前者は、AIを積極的に活用すべき領域です。
例えば採用の仕事であれば、応募書類を整理し、求める人材像に照らしてどの候補者がマッチするか、面接では何を聞くべきかを整理する。ここはAIのほうが得意です。しかし、AIが示した選択肢をどう扱うのか、実際に候補者と会った上でどう判断するのかは、人が担わなければなりません。
ただ、そうは言っても、実際の現場は単純ではありません。仕事は複数の業務や人の判断が相互に関係しながら進むため、「ここまではAI、ここからは人」と明確に線を引くことが難しい場合もあります。
私はこの問題の真因は、組織がこれまで、判断基準や責任の所在を明確にしないまま仕事を進めてきた側面があるように思うんです。人が担っているうちは、個人の経験や勘、暗黙の了解によって、 曖昧なままでも何とか回っていた。しかし、AIに仕事を委ねようとした瞬間、その曖昧さが一気に表面化するのだと思います。
判断基準と責任の所在が曖昧なままでは、AIに任せようにも任せ切れません。だからこそ、 何を良しとし、何を優先するのか。AIにどこまで任せ、どこから人が責任を持つのか。AIを活用するのであれば、なおさら、個人の経験や勘の中に埋もれていた判断基準や責任の所在を、組織として言語化しなければなりません。
— その基準は、どうすれば設定できるのでしょうか。
やはり、全てにおいて大切なのは、目的に立ち返ることです。この仕事は、誰にどのような価値を届けるために存在するのか。その目的を実現するうえで、何を大切にし、何を守らなければならないのか。そこから逆算して、判断基準を定める必要があると思います。
その上で、何をAIに任せ、どこを人が担うのかを決めていく。順番としては、まず目的を定め、次に判断基準を明確にし、役割と責任の所在を設計した上で、最後にAIの活用方法を考えるべきです。
最初から「AIをどう使うか」ではなく、「何のために使うのか」から考える。本来は、この順番であるべきだと思います。
AI時代の人的資本経営の実装は、仕事の棚卸しから始まる

— では、人的資本を「最大化」する設計に話題を移します。今、AI導入の目的が省人化・効率化に置かれがちです。その先にある最大化とは、何を指すのでしょうか。
改めて確認すると、人的資本とは、個人の持つ知識、能力、経験、意欲といった、価値創出の源泉です。
この人的資本を最大化するとは、単に少ない人数で多くの仕事をこなすことではありません。今ある人材をより価値の高い仕事で発揮できるようにすること、人的資本そのものを育てること、そして事業戦略に合わせて人とAIを再配置すること。この三つだと考えています。
一つ目は、人がその能力をより発揮できる環境を、AIで支援することです。仕事の多くは、情報収集、転記、分析、資料作成といった作業で占められています。こうした作業は今後、人が担わなくても良いかもしれません。むしろ、積極的にAIに任せ、空いた時間を、その人の能力がより発揮できる仕事に振る。
そのために必要なのがBPR(Business Process Re-engineering)です。ただ、現状が分からないのに業務プロセスを変えることはできないので、まずは「仕事の棚卸し」が必要になってきます。すべてはここから始まります。
二つ目は、人的資本そのものを育てることです。その人が何を得意とし、何を伸ばしたいのかを理解したうえで、少しストレッチな仕事を任せる。そして結果に対して成長のためのフィードバックを行う。仕事を通じた経験と、必要な学習機会を組み合わせることが重要です。
単に社内研修を増やせば良いという話ではありません。人の配置や仕事のアサイン、OJTや日々のフィードバック、自己学習支援まで含め、仕事と学習を一体として設計する。そうした仕組み全体を設計し直す必要があると思います。
そして三つ目が、事業戦略に合わせて、人材ポートフォリオを組み替えることです。
人材ポートフォリオの組み替えは、等級制度から着手する
— 前回の取材の続きとして、最も伺いたかった論点です。前回、事業ポートフォリオと人材ポートフォリオの連動・組み替えが人的資本経営の中核だと語られました。AIが業務に深く入り込み、仕事の単位が「人」だけではなくなる中で、このモデルはどう進化するのでしょうか。
考えは変わっていません。事業ポートフォリオを実現するために人材ポートフォリオを組み替える。これが前提です。そこに新しい要素として入ってきたのがAIです。人材ポートフォリオの核になるのはスキルですが、このスキルは、人が担うべきスキルとAIが担えるスキルに、より分解できるはずなんです。そこを一段深く具体化することが、AI時代の人材ポートフォリオに求められています。
—- そのとき、評価の問題が出てきます。たとえばこれまで「情報処理が速い人」は高く評価されてきました。それがAIに置き換わっていくとき、評価はどう変わるべきでしょうか。
まさに、評価も変えていかなければなりません。仮に「情報処理の速さ」が評価されてきた会社で、その役割をAIに委ねられるのであれば、評価の重心も、問いを立てる力や意思決定する力へと移していく必要があるかもしれません。
ただ、ここで重要なのは、評価だけ変えればよい、という話でもないことです。むしろ、人事制度そのものも変革しなければならないと思います。
というのも、人事制度は、大きく三つで構成されています。社員に期待する役割や責任を定める「等級制度」、どんな行動や成果を評価するのかを定める「評価制度」、そして、貢献にどう報いるのかを定める「報酬制度」です。この三つは、一体として設計されなければなりません。
このうち、AIによって仕事が変われば、人に対する期待役割も変わります。だから、人事制度の中では、まず等級制度から見直す必要があると思っています。。
会社が持つ資源は有限です。ゆえに、誰にどの程度の資源を配分するのかを考えなければなりません。例えば、お金。社員に支払う給与が全員同じではないのは、役割や責任が違うからです。その基準となる「ものさし」が等級なのです。
この「ものさし」を見直さないまま、例えば流行に乗っかって「AIを使いこなす力」みたいな項目を評価に加えても、制度全体として整合しないと思います。そもそもの期待役割を変えずに、評価項目だけ変えるのは本末転倒です。
最初の一手は、本社から一番遠い場所での1on1

— うるるでも、そうした「ものさしの作り替え」はあり得るのでしょうか。
あり得ると思いますが、見極めるには、現場の実態をちゃんと把握しなければならないと思っています。だから最初の一手は1on1です。3ヶ月以内に全社員と顔を合わせますと、いろんなところで言っています。正社員は約300名、契約社員や派遣社員などの方を含めると約500名。まず3ヶ月で正社員、半年以内には全員と話します。
外部から入った役員ほど、早く成果を示そうと、制度や仕組みを変えることを急ぎがちです。 でも、急いで何かを変えてうまくいった会社を見たことがありません。うるるがここまで成長してきたのは、現場の人たちの工夫や努力があったからのはずで、それは絶対に壊してはならない。話を聞きまくって、壊してはいけないものは守り抜く。同時に、「こう変えればうるるはより成長できる」という自分の仮説を、現場との対話を通じて検証していきたいと思っています。
今回は、東京本社から遠いところから始めることを考えています。うるるはBPO事業の拠点が大分と徳島にあるのですが、距離が離れているからこそ、本社からは見えにくい課題や、認識の違いがあるかもしれません。こうした現場から見て「東京をどう見ているか、自分たちの役割をどう捉えているか」を知ることは重要だと思うんです。だからまずは一番遠い場所へ足を運び、直接聞きに行くことを考えています。
— 1on1で「聞く」ために、意識されていることはありますか。外から来た役員が相手だと、社員は「聞きたいであろう話」をしてしまいそうです。
1on1で一番大事なのは全身で「聴く」ことですが、私も含めた多くの人は聴く練習をしたことがありません。危ないのは、「聞いていますよ」というシグナルを聴き手が発信してしまうことです。
例えば、聴き手が相槌を打ちながら「いいね」とリアクションし過ぎると、話し手は無意識のうちに承認してもらえるであろう話をしてしまう。だから私は1on1のとき、過剰に反応しないのはもちろん、そもそもあまり動きません
こう思うのようになったのは、実は以前、ある研修でコーチの方に「太田さんは人の話を聞いていない」と指摘されてハッとした経験があったからなんです。コーチが言うには「太田さんは相手の話を途中まで聞いたところで、その先を聴くのはそこそこに、自分の頭の中で続きを組み立ててしまっている」と。いわゆる『左脳寄り』の人に見られやすい傾向だそうで、 耳の痛いフィードバックでした(笑)。
もう一つ意識しているのは、相手に本音で話してもらえるために、自分が持つ権威性を下げにいくようにしています。うるるの社員の皆さんには、「太田さん」ではなく「おーちゃん」と呼んでくださいとお願いしています(笑)。さん付けや役職で呼ばれると、どうしても壁ができてしまう。呼び方ひとつで対話の距離は変わるので、まず自分から壁を取り払って、何でも話してもらえる関係を作りたいと思っています。
— そうした動きの先で、AI時代のCHROの役割は何に集約されていくのでしょうか。
キーワードは3つです。事業戦略に基づいて人材ポートフォリオと人事の仕組みを設計し直すアーキテクト。仕事や役割が変わることへの不安や抵抗に向き合い、変革を前に進めるチェンジリーダー。そして、AIを活用する範囲や判断のルール、責任の所在を定め、適切に運用されているかを管理するガバナンス。 設計、変革、統治。この三つが、これまでのCHROの役割に加えて、より強調されていくと思います。
カルチャーという見えない資本が、生態系の競争力になる

— うるるは、クラウドワーカーという社外の働き手の力を事業価値に変えてきました。一方で、人的資本開示の枠組みは雇用契約のある正社員が前提です。企業は、外部の働き手の人的資本をどう捉え、その成長に投資すべきなのでしょうか。
前提として、労働人口が減る中で、外部人材との協働は、どの企業にとっても重要な取り組みだと思います。人的資本経営においても、業務委託、アルバイト・派遣、一度退職した方との関係も含めて、自社に必要な資本とは何かを考え直すことは、どの企業にも必要です。必要な人材をすべて自社だけで確保できる企業は、国内に存在しませんから。
その上で私は、適正な報酬と公正な取引を前提に、外部の方にも、可能な範囲で成長や次のキャリアにつながる機会を提供すべきだと考えています。
例えば、業務委託の方とは仕事内容や条件に納得頂いた上で契約を取り交わしますよね。ただ、業務委託の方が仕事を選ぶ理由は報酬だけではなく、「この仕事を通じて経験を積みたい」「次の仕事やキャリアにつなげたい」という期待を持つ方もいるでしょう。 契約に表れないご自身の今後のキャリアを前提にした期待が絶対にあるはずなんです。
だからこそ、労働力を提供してもらうだけの関係ではなく、その人にとっても意味のある仕事や経験を提供する。そのような関係を築くことが、外部人材との継続的な共創につながると思います。
— 報酬とは別の軸で報いる、ということでしょうか。
そうです。次につながる機会だけでなく、たとえば「この組織に自分は大切にされている」「仲間として尊重されている」と感じられることにも、外部人材にとって大きな価値になると思っています。
人的資本と並んで重要な概念に「社会関係資本」という考え方があります。人と人との信頼、互いに助け合う規範、そしてネットワークなどです。
優秀な人を単に集めるだけでは、それぞれの力を足し合わせるにとどまります。ですが、お互いの価値観や前提がすり合い、共通言語を持つ組織は、信頼をもとに協力でき、一人ひとりの力が掛け算のように引き出されます。
強いカルチャーを持つ会社には、こうした目に見えない資本があります。私がうるるを選んだ理由の一つも、そこにあります。うるるが持つカルチャーは、AI時代において、かけがえのない競争力になるのではないか。私はそう考えています。
— 社員に閉じない資本、という捉え方ですね。
これからの企業競争は、企業対企業だけではなく、その企業が作る生態系同士の競争になっていきます。いわゆる経済圏の競争を思い浮かべてください。社員だけでなく、パートナー企業や業務委託の方々、お客様まで含めた生態系全体で競争する時代です。
そのとき、外部の方々に「この生態系に関われてよかった」と思ってもらえる状態を作れなければ、企業競争で負けてしまいます。囲い込むのではありません。良い生態系はどんどん広がって大きなうねりになるし、窮屈なら人は出ていく。それだけです。
うるるは「世界に期待され 応援される企業であれ」という企業理念を掲げ、社員の皆さんは「相手の期待を超える『おもてなし』」を大事にされています。相手がパートナー企業や発注先であっても、誠実に向き合ってファンになってもらう。人・組織の専門家から見ると、生態系の設計を分かりやすくやっている会社で、これは強い。今あるものを壊すのではなく、さらに磨き込み、より大きな競争力へとつなげていきたいと思っています。
働いて心から良かったと思える組織を、日本を代表する企業の序章として作る
— 最後のメッセージをお願いします。AI活用に迷う経営者、人事責任者は、明日から何を問い直すべきでしょうか。
私は毎晩寝る前に、「自分は社員の幸福のために最大限努力したか」を問い直しています。
AIを活用することは、企業経営上、避けては通れません。ただ、人が幸福を追求する存在である限り、その幸福をどう支えるかを、人事の責任者は常に考える必要があるし、経営者ならなおさらです。これは新たに問い直すというより、ぶらさずに持ち続けるものですね。
うるるの社員の皆さんには、「この会社で働いて、心から良かった」と思える組織を私は作りたい、と伝えています。名刺交換のときに、嬉しそうに自分の会社を語れる。家族から「うるるで働いて本当によかったね」と言ってもらえる。そういう状態を作りたい。
そして、うるるは将来、日本を代表する企業になるとも伝えています。もしかしたら私たちが生きている間には間に合わないかもしれませんが、少なくとも私たちはその物語の序章を作っている。そういう思いを持って、私自身、一人ひとりの社員と、目の前の仕事に向き合っていきたいと思っています。

編集後記:AI変革の実体は、地道で確実な順番にある
AIをともなう組織変革とはどのようなものなのか。その核心が語られる後編をお届けしました。委ねる基準を言語化する。仕事を棚卸しする。等級というものさしを作り変える。そして、現場の声を聞く。この地道ですが確実な順番こそが「AIを前提に、AIに依存しない」という言葉の実体なのだと思います。
そしてもう一つ注目すべきは、太田さんの視線が、雇用契約の内側にとどまっていないということでしょう。クラウドワーカーやフリーランスまで含めた生態系の中で人的資本を捉える発想は、「人的資本の社会的共有」を掲げる本メディアの目指す方向と深く重なります。この実践がどのような未来を描くのかに要注目です。










