2026年3月、国際女性デー特別企画「石山アンジュさんと考える──フリーランスという選択肢、女性陣のためのキャリアイベント」が開催されました(主催:テックビズ)。登壇した石山アンジュ氏(一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事/Public Meets Innovation代表)が展開したのは、自身のキャリアをまるごとさらけ出す「ぶっちゃけトーク」。
新卒大手人材企業時代の挫折、個人と企業の非対称性への怒り、シェアリングエコノミーとの出会い、そして気づけば「流れで」たどり着いた現在の働き方——。本記事では、第1部講演の模様をお届けします。
「世界平和」を夢見た子どもが、大手企業で知った「おかしさ」

石山さんの自己紹介は、通常のものとは少し趣が異なります。「境界を溶かす──社会との付き合い方、働き方」というテーマを掲げた石山氏が最初に語り始めたのは、実績でも業界での立ち位置でもなく、「なぜ今の自分になったか」というバックストーリーでした。
横浜育ちの石山さんの実家は、世界各国から人が集まるシェアハウス。血のつながらない「お兄さんお姉さん」が常に家にいる環境で育った経験が、後の「拡張家族」という思想の土台になっています。小学校のときに両親が離婚し、「私って何のために生まれたんだろう」というアイデンティティクライシスも経験しました。そこでつかんだのは「社会のために何かするために生まれたのかもしれない」という自己肯定の軸でした。以来「世界平和への貢献」をキーワードに、ICU(国際基督教大学)で平和研究を学びます。
卒業を目前にした2011年3月11日、東日本大震災が起きます。志望していたテレビ・報道系の採用は軒並み中止になり、「3年だけ修業して辞めていい」という話ができた大手人材系企業へ入社。人材部門で中小企業への電話営業からスタートし、2年目以降は大企業の人事担当者を相手に、転勤の仕組みの設計支援や女性管理職比率向上に向けた研修開発に取り組みます。
しかしそこで感じたのは、強い違和感でした。転勤の意思決定が個人の家庭事情よりも会社の都合で決まる現実。女性活躍の数値目標をクリアするために「実態が追いついていなくても、それっぽく見せる」ことが横行する実態。「個人は本当に企業と対等なのか」という問いが、どうしても拭えなかったといいます。
「お客さんの前で『そんなのおかしくないですか』と言ってしまって、エレベーターの前でめちゃくちゃ泣くこともありました」
「独立しよう」と決めたわけではなかった──縁と流れで広がったキャリア

転機は入社3年目、レイチェル・ボッツマンとルー・ロジャースが書いた『シェア』という書籍との出会いです。個人が主体的に場所も時間も選べる新しい働き方を説いたその本は、「個人と企業の関係性をもっとフラットにできるかもしれない」という渇望とぴったり重なりました。約束通り3年でリクルートを退職し、クラウドワークスへ入社。しかしそこでもすぐに「次の壁」に気づきます。個別のサービスを広げるだけでは社会全体は変えられない。政策や法律が動かなければ、市場の土台ごとは変えられないという認識です。そこからシェアリングエコノミー協会の立ち上げに携わり、セクターを横断する働き方へとシフトしていきます。
ここで興味深いのは、石山さんが「独立しよう」という明確な意思を持っていたわけではなかったという点です。協会に移るタイミングで書いたコラムが大きくバズり、個人名での取材・講演依頼が相次いだことで、「個人でも受けた方がいいんじゃないか」と開業届を出したのがフリーランスとしての出発点でした。
「独立しようと思ってというよりは、ご縁があって、流れで独立するようになった」と本人は振り返ります。コメンテーターの依頼、NewsPicksのMC、出版、政府審議会への参加——仕事が仕事を呼ぶ連鎖の中で、気づけば「社会起業家」という肩書きを名乗るほかない状態になっていました。現在は、シェアリングエコノミー協会(スタッフ15名規模)の代表に加え、政策・ルール形成の担い手を育てるPublic Meets Innovationの代表も務めています。
フリーランスとして活躍するために——石山氏が語るキャリアの3つのポイント

講演の後半で石山氏は、自身のキャリアを通じて見えてきた3つのエッセンスを語りました。フリーランスを目指す人はもちろん、組織の中でキャリアを考える人にも大きなヒントになる内容です。
① 使命感を持つ
「20代の女性に何できるの?」という視線を感じながら、それでも自信を持ち続けた根拠は「経験の量」ではありませんでした。「シェアリングエコノミーのことなら、年齢や経験に関係なく、誰よりも強い思いがある。誰よりも私は知っている」。その使命感が、そのまま自信の源泉になったといいます。強い思いを発信すると、それに共鳴して支援してくれる仲間が集まってくる。その連鎖が、さらに自信を育てていきます。
② ビジョンを描く──「嫌なこと」から探していい
「やりたいことが見つからないなら、嫌なことから探す」というのが石山さんの発想法。たとえば、満員電車で泣いている子どもをみんなが無視している光景に違和感を覚えるなら、それが自分のアンテナ。そういった日常の「これは嫌だ」「これは違う」を丁寧に言葉にして積み重ねていくと、やがて一つのキーワードや思想として結晶化していくといいます。
「課題のソリューションはChatGPTでも考えられる。でも、解決した先にどんな未来があったらいいか、という問いはAIには出てこない。そこにこそ、これからの人間の役割がある」。石山氏はそう語ります。
③ 仲間の作り方──「対話」と「弱さの開示」
役職やスキルで組織を構成する従来型のチームとは異なり、石山氏が重視するのは「ビジョンに向かうフラットなチーム」です。「議論よりも対話」を大切にし、リーダー自身が弱さやできないことを積極的に開示することで、信頼と連帯が生まれると語ります。渋谷を中心に運営する拡張家族シェアハウスも、そのままこの思想の実践の場になっています。
おわりに:「個人と企業の関係性」を問い続けるキャリア

石山アンジュさんの講演を一貫して貫いていたのは、「個人は、本当に企業と対等なのか」という問いでした。
リクルートで目撃した転勤の不条理も、女性活躍推進の「着色」への怒りも、この問いから来ています。シェアリングエコノミーへの傾倒も、ルールメイキングへの転身も、突き詰めれば「個人が主体となれる社会をつくる」という使命感の表れだといえるのではないでしょうか。
企業側目線としても、フリーランスという働き方を「リソース調達の手段」として見るのか、「個人の主体性を解放する仕組み」として見るのか。
その視点の差は、組織設計や人材戦略にも深く影響するものになるでしょう。
編集後記:「流れで独立した」という言葉が、なぜ力強く聞こえるのか
石山さんが「独立したいと思っていたわけじゃなかった」と語った場面が、印象に残っています。「フリーランス」や「社会起業家」というキャリアを、緻密に設計した結果としてではなく、使命感と縁が引き寄せた結果として語る。その誠実さが、むしろ説得力を持っていると感じたのです。
人事の文脈に置き換えれば、キャリア開発は「設計するもの」であると同時に、「使命感を持ちながら縁を引き寄せていくもの」でもあるでしょう。個人のそういう主体性を、組織の中でどう尊重し、育てられるか。石山さんの話は、具体的なキャリアストーリーを通してその問いを投げかけてくれていました。
イベントレポートはこちら
石山アンジュ氏の講演の後に行われたパネルディスカッションの様子や、イベントに関してはこちらでレポートしています。ぜひご覧ください。









