2026年4月24日、「フリーランス協会代表理事と考える 自律的なキャリアの描き方」(主催:テックビズ)が開催されました。登壇したのは、一般社団法人フリーランス協会代表理事の平田麻莉氏です。広報のプロフェッショナルとして多数のスタートアップや教育機関を支援しながら、フリーランス法の制定にも携わってきた人物です。
第一部のトークセッションで平田氏が展開したのは、「計画」ではなく「なりゆき」によって形成されてきたキャリアの軌跡と、その背後にある働き方の哲学でした。スライドにはユーモアを交えながら、フリーランスとして長く活躍するための本質的な視点が、率直な言葉で語られていきました。本記事では、その模様をお届けします。
平田麻莉氏プロフィール

慶應SFC在学中にPR会社ビルコムの創業期に参画。研究者を志し、ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、慶應ビジネス・スクール修了。博士課程へ進学するも出産を機に中退。フリーランスで段階的に社会復帰し、2017年にフリーランス協会設立。非営利で全員複業の当事者団体として、フリーランス法の成立やフリーランス向け福利厚生の提供など、新しい働き方のムーブメントづくりと環境整備に尽力。政府検討会の委員・有識者経験多数。
慶應義塾大学 Keio LEAP for Nonprofit特任助教。Co-Innovation University准教授。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。
なりゆきで始まった、フリーランスという働き方

「これはN=1のサンプル数一のお話です。どれだけ役に立つかはわかりませんが、こんなことでもありだよ、と気が楽になるヒントになれば」
平田氏の講演は、こんな言葉と共に始まりました。フリーランス協会の代表理事でありながら、広報、産学連携、行政委員、そして慶應大学や今春開学した実験的な四年制大学Co-Innovation University(CoIU)の教員と、複数の顔を持つ平田氏のキャリアは、驚くほど「計画外」の連続です。
最初のキャリアはPR会社。創業三ヶ月目という立ち上げ期の会社に、学生のうちから飛び込みました。その後、「二十六歳でお局化してしまった」と笑いながら話す平田氏は、研究者を志して修士・博士課程へ進学します。ところがそこでも、事態は予定外の方向へ転がりました。
「博士課程の学生をやりながら、母校から広報と国際連携の仕事をしてほしいと言われて。学生が本分だからと業務委託で受けたのが、フリーランスになったきっかけでした」
つまり、フリーランスになったのは「独立しよう」と決意したからではありません。状況の流れの中で気づけばそうなっていた。それが実態だというのです。
その後も、結婚・妊娠による二年間の専業主婦期を経て仕事を段階的に再開し、「抱っこしたまま仕事するカンガルーワーク」を経て活動の幅を広げ、コロナ禍では政府と連携した支援策づくりに奔走しました。三人の子どもを育てながら現在に至るそのキャリアは、逆算設計とは対極にあるようにみえます。
この「なりゆき」を、平田氏はひとつのキャリア理論と接続させて語ります。「プランド・ハップンスタンス理論(Planned Happenstance Theory)」、日本語で「計画的偶発性理論」と呼ばれる考え方です。
「私は勝手に波乗り理論と言っているんですが、アンテナをいろいろ張っておいて、いい波が来たら乗る勇気を持つ。それが大事なんじゃないかと思っています」
「魂が自由」という感覚──フリーランスを選び続ける理由

では、平田氏はなぜ今もフリーランスという働き方を続け、好んでいるのでしょうか。
「人生は有限ですから、アサインされた仕事とか、不毛な会議に時間を使いたくない。どんな取引先と仕事をするか、何に時間を使うかを、忖度や空気読みなしに自分で決められるのが、フリーランスとしていちばんいいなと思っているところです」
「魂が自由」という言葉は多くの人に刺さるのではないでしょうか。組織に属することで生じる、評価への過剰な配慮、不本意なアサイン、異動・転勤という名の他者決定。そういった構造から距離を置けることを、平田氏はフリーランスの核心的な価値として語ります。
さらに、こんな言葉も飛び出しました。「あるとき事務局のメンバーが『鬼滅の刃』のセリフを引いてきたんですよね。『生殺与奪の権を他人に握らせるな』って。まさにそれだと」
会社の看板ではなく、自分の名前で生きる。それがフリーランス協会のコンセプトでもある「キャリア自律」の本質だと平田氏は言います。ただしそれは、フリーランスになることが唯一の正解だということではありません。
「必ずしも独立するということではなくて、会社員でもキャリア自律できている方はたくさんいます。やらされ仕事じゃなく、自分で決めたことをやる。この分野の専門家になりたい、このプロジェクトをやりたいと言える。会社の名前ではなく、あなたにお願いしてよかったと言ってもらえる。そういったことが実現できる人が増えるといいと思っています」
「資格もホームページも不要」──よくある誤解と、本当に大事なこと
フリーランスとして活動しようとする人に多い「準備の落とし穴」についても、平田氏は率直に語りました。
「独立前に資格を取ろうとか、スクールで新しいスキルを勉強しなきゃとか。そういうところでもしかすると、騙されたり、しなくても良い遠回りをしてしまうことになるかもしれません」
さらに続けます。「センスのいいサイトを作らなきゃとか、キャッチコピーを考えなきゃとか、SNSのフォロワーを増やさなきゃとか。私は独立してずっと、自分のホームページも名刺も一度も作ったことがないんです」
では何が大事なのでしょうか。
「フリーランスとして活躍するために、何者かになる必要はない。一番大事なのは、目の前の人の期待値を120%超えていくことです」
その言葉は、抽象的な精神論ではなく、現実的に一番大事にしなければならないこととして語られました。SNSで「副業頑張ってます」と発信しても、同じ会社の同僚が誰もいいねしていなければ、それはもしかすると同僚の中にはもっとこっちもがんばってくれよという気持ちが生まれている証拠かもしれません。信頼は積み重ねるものであり、その源泉は今この瞬間の仕事の中にしか宿らない、というわけです。
フリーランス協会の事務局メンバーたちが議論して導き出した「活躍するフリーランスの7つの特徴」も紹介されました。常に学び続ける姿勢、プロジェクトへの巻き込み力と巻き込まれる柔軟さ、自分の機嫌を自分で取る「自家発電力」、自責思考、ワークとライフの境界を引く力、そしてこの人に任せれば大丈夫という信頼感——これらが、長く活躍し続けるフリーランスに共通して見られるといいます。
失敗談と、フリーランスの「適正価格」問題
平田氏は、自身の失敗談も包み隠さず話しました。
「独立したばかりの頃って、意外とたくさん引き合いがあるんです。ご祝儀代わりにいろんな人が仕事をくれる。嬉しくて全部受けちゃうし、自信がないから安い費用でいっぱい受けてしまう」
結果は、「パンク」でした。
「ほんとに黒歴史なんですけど、一社、すごく迷惑をかけてしまったところがあって。お酒と同じで、飲みつぶれてみないと自分のキャパがわからないというか。しっかり結果を出せる業務量を調整することと、適正な対価をもらうことは、自分のために自分でしかやってあげられないんです。サステナブルに信頼を積み重ね続けるためにも、ちゃんと意志を持って価格交渉することが必要です」
「最初は一定期間、イエスキャンペーンとして何でも受けてみるのもアリ。でも、自分の感覚がわかって実績ができてきたら、自分で意思を持って値付けをしていく」
この段階的なプロセスが、経済的な不安を和らげながらフリーランスとして根を張るための現実的なアプローチだと語りました。
一歩踏み出すために。自分を言語化し、褒めることから始めよう

トークの終盤、「これからフリーランスや自分らしい働き方を目指す方へのメッセージを」という問いに対して、平田氏は二つのことを語りました。
一つ目は、自分の価値を「言語化」すること。
「会社員で同じ部署にいると、みんな同じことができる環境なので、自分のやっていることが大したことないと思いがちなんですよね。でも一歩外に出てみると、自分が当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃないところもたくさんある。まずそれをちゃんと言語化して、自分を褒めてあげることが大事です」
二つ目は、「根拠のない自信」と「根拠のない不満足」を両立させること。
「フリーランスになると、誰も褒めてくれないんです。クライアントも、うまくいかないことがあっても笑顔で『ありがとうございました』と言って契約終了することがある。だから自分の機嫌を自分で取る、自分をちゃんと評価してあげる力が必要です。同時に、常に自分に厳しく改善志向で客観的に振り返る、こう両面を持つことが大事だと思っています」
そして、キャリアそのものの意味についても、こう語って締めくくりました。
「キャリアって、もともとは『轍(わだち)』という意味なんです。馬車が通ったあとの跡。今、キャリアデザインというと未来を描いて逆算してと言われがちですが、本来は、その時々のご縁やきっかけで頑張って走ってきたことを振り返った時に、そこに唯一無二の自分のキャリアができている。それが本来の意味だと思うので。なりゆきに全部意味付けをしていけばいいんじゃないかなと、私は思っています」
編集後記
平田さんの話を通じて印象に残ったのは、その「正直さ」の質です。キャリア論のイベントといえば、成功ストーリーを整然と語る場になりがちですが、平田氏は独立直後の失敗、思わぬ妊娠、病気——そういった「計画外」の出来事を、包み隠さず語りました。それでいてどこか軽やかなのは、それらすべてに「意味付け」をしてきたからでしょう。
「波乗り」というメタファーも、ただのポジティブ思考ではないことが伝わってきました。波を選ぶためには、アンテナを張り続けること、乗る勇気を持つこと、乗ったあとにバランスを取り続けることが必要です。フリーランスという働き方は、自由である分、そのすべてを自分で担うことを意味します。
また、平田氏の話はフリーランス個人へのメッセージであると同時に、企業が「フリーランスとどう向き合うか」という問いへの示唆でもあります。自律的なキャリアを持つ人材を単なるリソースとして扱うのか、その専門性と主体性を尊重してインサイダーとして迎えるのか——その姿勢の差は、長期的な信頼関係の構築に直結するはずです。
「なりゆきを全部、意味付けしていく」。
その言葉は、個人のキャリア論としてだけでなく、組織と個人の関係を再考するための視座としても、念頭に置いておきたい言葉でしょう。
本記事は、2026年4月24日に開催された株式会社テックビズ主催イベント「フリーランス協会代表理事と考える自律的なキャリアの描き方」第一部トークセッションの内容をもとに、編集・構成したものです。










