人的資本経営の重要性が高まる中、企業の人事システムは大きな転換期を迎えています。本稿では、世界で約9兆円規模に成長したHCMアプリケーション市場の最新動向を、詳細なデータとともに解説。主要ベンダーの動向、市場セグメントの構成、そしてAI時代における今後の展望まで、グローバル市場の全体像を俯瞰します。
岩本 隆氏プロフィール

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院応用理工学研究科マテリアル理工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授。2022年12月より2025年3月まで慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。2023年4月より慶應義塾大学大学院経営管理研究科講師、山形大学客員教授。 (一社)ICT CONNECT 21理事、(一社)日本CHRO協会理事、(一社)日本パブリックアフェアーズ協会理事、(一社)SDGs Innovation HUB理事、(一社)日本DX地域創生応援団理事、(一財)オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。
HCMアプリケーションとは
企業・団体が活用する人事や人材マネジメントの情報通信システムは、以前はHRIS(Human Resources Information System:人的資源情報システム)やHRMS(Human Resources Management System:人的資源マネジメントシステム)と呼ばれていたが、2010年代に入ってからはHCMアプリケーションと呼ばれるようになった。HCMはHuman Capital Management(ヒューマンキャピタルマネジメント)の略であり、日本では人的資本経営と訳されて広く使われるようになった。HCMアプリケーションが以前の情報通信システムと異なるのは、クラウドアプリケーションが増えていることであり、オンプレミスのアプリケーションを活用する企業の比率は下がってきている。そして、多くのHCMアプリケーションがSaaS(Software as a Service)として提供されている。
図表1にApps Run The World社が公表している情報を元に作成したHCMアプリケーションの世界市場規模推移を示す。2024年の市場規模は約587.08億米ドルであり、1米ドル=150円で換算すると約8兆8,000億円となる。Apps Run The World社の調査には、インターネットを活用した求人メディアや求人検索エンジンなど、事業規模が大きい一部のアプリケーションが含まれておらず、これらを含めると10兆円は優に超える市場規模となる。2019年から2024年の市場規模の年平均成長率は13.8%と高成長率の市場であり、2025年以降も年平均6.7%で成長することが予測されている。

HCMアプリケーション市場のセグメント構成
Apps Run The World社はHCMアプリケーション市場を3つの大セグメントと19の小セグメントに分けており、各セグメントの2024年の市場規模を図表2に示す。大セグメント別での市場規模は以下となった。
(1)コアHR/タレントマネジメント:355億米ドル
(2)タレントアクイジション:145億米ドル
(3)ワークフォースマネジメント:87億米ドル
タレントアクイジションは人材採用のことであるが、世界ではタレントアクイジション(タレント獲得)という言葉が広く使われるようになっている。ワークフォースは働き手ということであり、ワークフォースには内部の働き手(従業員)に加え、外部の働き手(フリーランス等)が含まれる。
小セグメント別の市場規模トップ5は以下となった。
(1)コアHR:106億米ドル
(2)給与計算:84億米ドル
(3)学習&開発:58億米ドル
(4)リクルーティング:53億米ドル
(5)パフォーマンス/ゴールマネジメント:50億米ドル

HCMアプリケーションベンダーのトップ企業
図表3にHCMアプリケーションの2024年世界売上高トップ10社を示す。大半が米国本社の企業であるが、HCMアプリケーションにオンライン求人メディアや求人検索エンジンを含めた場合は、リクルートホールディングスが世界売上高トップになる。

リクルートホールディングスを含めた世界売上高トップ11社は、大きく分類すると図表4に示すようになる。ペイロール系のHCMアプリケーションベンダーはこの数年、タレントマネジメントベンダーの買収等を積極化しており、タレントマネジメント系HCMアプリケーションベンダーもさまざまな機能の買収等によって統合化を進めているため、これら2つの市場セグメントの垣根はなくなりつつある。

図表5にHCMアプリケーション全体と3つの大セグメントにおける2024年世界売上高トップ10社を示す。図表5の中のTMはTalent Management(タレントマネジメント)、TAはTalent Acquisition(タレントアクイジション)、WMはWork Management(ワークフォースマネジメント)の略である。

図表5をながめると以下の特長がみえる。
・3つの大セグメント全てで上位10社に入っている:4社(ワークデイ、UKG、SAP、オラクル)
・コアHR/TMとWMで上位10社に入っている:4社(ADP、ペイコム・ソフトウェア、デイフォース、ペイロシティ・ホールディング)
・コアHR/TMで上位10社に入っている:2社(コーナーストーン オンデマンド、ペイチェックス)
・TAで上位10社に入っている:6社(マイクロソフト、ServiceNow、リクルートホールディングス、iCIMS、Bullhorn、ファースト・アドバンテージ)
・WMで上位10社に入っている:2社(Visier、ATOSS)
3つの大セグメント全てで上位10社に入っているHCMアプリケーションベンダーは、統合型のHCMアプリケーションを展開しており、さまざまな機能のM&A等による取り込みも積極的に行っている。コアHR/TMとWMで上位10社に入っているHCMアプリケーションベンダーは、ペイロール系が多く、上述したように最近はタレントマネジメントの機能を取り込む動きが活発化している。1つの大セグメントだけで上位10社に入っているHCMアプリケーションベンダーは、機能を特化してビジネス展開をしており、特にタレントアクイジションセグメントで機能特化のHCMアプリケーションベンダーが多い。
主要上場企業の財務状況
HCMアプリケーションの市場調査会社は多く存在しているが、各市場調査会社によって市場規模の集計の方法が異なっており、HCMアプリケーション市場規模については、さまざまな異なる数字が公表されている。そのため、市場の実態を把握するには調査対象とするHCMアプリケーションベンダーの製品毎の売上高を見ていく必要がある。上場企業は財務情報を公開しているため、HCMアプリケーションの売上高トップ100社の内、HCMアプリケーションの売上高が全社売上高の大半を占める上場HCMアプリケーションベンダーの直近業績を図表6に示す。1米ドル=150円で換算すると、91位のアップワーク社の売上高は約1,150億円となり、この事実から売上高1,000億円を超えるビジネスを展開しているHCMアプリケーションベンダーが世界には多く存在していることがわかる。ちなみに、アップワーク社は臨時労働者(フリーランス等)マネジメントの市場セグメントで2024年の世界売上高3位のHCMアプリケーションベンダーである。

HCMアプリケーション市場の将来展望
本稿では、HCMアプリケーション世界市場の最新動向について、全体感を示した。HCMアプリケーションベンダーには、大企業も多いがスタートアップ企業も多く、ユニコーン企業(企業価値10億米ドル以上)に成長する企業も増えている。またデカコーン企業(企業価値100億米ドル以上)にまで成長した企業も出現してきている。今後も、AI(Artificial Intelligence:人工知能)等のテクノロジーの進化は続いていくため、テクノロジーに進化に伴って開発競争はまだまだ続くことが予想される。HCMアプリケーション市場の今後どう進化していくか注目である。
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