「ツールは入れた。でも、なぜか忙しさが変わらない」
AI活用が盛り上がりDXツールが乱立する中でよく聞く言葉ではないでしょうか。
あなたはこういう声が出始めたときに、何から手をつけますか。多くの会社は、ツールを見直します。マニュアルを整備したり、研修を追加したり。しかしもう少し俯瞰して考えてみると、問題はツールの使い方ではなく、DXの目的の立て方にあることが多いのです。
DXを「人手を減らすための施策」として設計すると、現場では一種の矛盾が起きる、ということがあります。業務は自動化されたはずなのに、例外処理の問い合わせが増え、承認フローの解釈をめぐるやり取りが管理職に集中し、結果として調整業務が膨らむ。工数の数字は改善しているのに、現場の体感としては「むしろ増えた」という感覚が残る。これが「省人化DXが生む摩擦」の代表例です。
今回は、HUMAN CAPITAL+で企業分析ハック氏に行ったインタビューの視点を起点に、DX人材活用を「省力化の手段」から「人を付加価値に集中させる業務再設計」として捉え直すための考え方を整理してみましょう。
省人化に寄ったDXが、現場を弱くする理由
DX推進の初期フェーズで起きやすいのが、「内部問い合わせの激増」です。新しい申請フローやCRMを導入した直後、チャットやメールが急に増える。「この入力項目は何を書けばいいですか」「例外のケースはどこで対応しますか」「承認が止まっているんですが、誰に言えば良いですか」・・・など、このようなシーンを思い出す人は少なくないはずです。
ツールの導入によって標準化したはずが、運用の解釈を埋める役割が管理職に集まってしまい、カレンダーは承認や差し戻しで埋まり、本来やるべき意思決定や部下の育成が後回しになっていく。
そして要注目なのは、ゆっくりと効いてくる悪い副作用で、それは、現場の「考える機会」が減っていくということです。テンプレート化や自動化が進むほど、現場は判断する必然性を失っていくのです。顧客対応をルールで固めすぎると、観察や工夫の余地がなくなり、提案力や対応品質がじわじわ落ちていく。様々な現場で、ツールが整ったように見えるのに、提供価値が落ちている、という状況がないでしょうか。
だからこそDXの成否は、導入直後の削減数字よりも、半年後・一年後に「価値が増えたか」を指標にすることが重要です。
「DXの成果が工数削減や人数削減だけで語られていないか」「管理職の仕事が意思決定より調整に寄っていないか」「現場からの改善提案が以前より減っていないか」。
もしこれらの問いに複数当てはまるなら、次に必要なのはツールを足すことではなく、DXの目的を設定しなおすことをおすすめします。
「付加価値集中モデル」への再定義
企業分析ハック氏が語っていた言葉で印象的なもののひとつは、「企業の強さを突き詰めるほど、財務諸表に載らない”人の力”が効いてくる」という視点でしょう。DXも同じで、道具の性能より「人がどこで力を使えるようになったか」のほうが本質的な問いだといえます。
つまりDXとは、「人を減らすためではなく、人を付加価値に集中させるための再設計である」ということができます。この文が経営と人事の間で共有されると、会議の議論が「何を削るか」から「どこに人を戻すか」へ変わり、人が戻る先が見えて初めて、DXは人材活用の施策になります。
ここでポイントなのは「付加価値」を抽象的なまま使うのではなく、組織に合わせて共通言語に言い換えて置くことです。例えば、一つの整理として、顧客が価値を感じる瞬間に近い仕事(品質、提案、スピード、安心)を「価値に近い仕事」、重複入力や確認のための確認、部署間の受け渡し摩擦を「価値から遠い仕事」として区別する。DXは、遠い仕事を仕組み化し、浮いた時間と判断力を近い仕事に向けるために使うというイメージをもつことが重要です。
ここで一つ、現場でよく見る失敗パターンがあります。
情報があつまるダッシュボードを整備したのに現場が見ない、というケースです。話を聞くと、数字は揃っているのに「今日の自分の判断」に直結していないということがあげられます。「この顧客への次の提案は何か」「どの案件のボトルネックを先に解くべきか」。こういう問いに答えない情報は、正確であっても使われません。現場力を伸ばすDXが目指すのは「見える化」ではなく「判断できる化」です。現場が使いたい問いから指標を組み直すとアイデアもではじめ、何をするかにエネルギーが向かいます。
業務再設計の進め方——現場力を落とさないために
業務再設計というと、フロー図を整備して終わり、ということになりがちですが、当然ながら図がきれいになっても、価値の流れが通っていなければ現場は変わりません。
最初の一歩として有効なのは、「顧客価値のどの瞬間を強くするか」を一つ決めることです。見積提出が遅い、問い合わせがたらい回しになる、品質事故の初動が遅れる。こうした症状の裏には、受け渡しの摩擦、例外処理の曖昧さ、判断の所在不明が潜んでいます。ここを見ないままツールを入れると、例外が現場に押し付けられ、人が回収することにななってしまいます。省人化のつもりが現場を疲弊させるのはほぼこのパターンだといえるでしょう。
次に、仕事・情報・意思決定の三つをセットで整えることが必要です。手順だけ整理しても、必要な情報が揃わなければ判断できません。情報があっても、誰が何を決めるかが曖昧なら、判断待ちのままになってしまいます。この三点のどれかが欠けると、現場は動けなくなります。
現場の巻き込み方も、設計の質を大きく左右する要素でしょう。現場を「抵抗勢力」として扱うような取り組みにはなっていないでしょうか。現場にあるのは「例外」と「現実」。これこそが設計のポイントになります。
困りごとをヒアリングするよりも、「この業務の価値は何か」「どこで価値が止まっているか」という問いから入ると、ツール要望の話に終始せず、価値に向かって議論が揃っていくでしょう。
最後は、小さく試すことが重要です。いきなり全社展開すると例外と摩擦が同時多発します。1部署で試し、例外を拾い、ガードレールを整えてから全体に展開する。この順序が、現場力を落とさずにスピードも出せるDX導入の現実解だと言えます。
業務再設計が機能しているかどうかは、「顧客価値の起点が定義されているか」「価値を止めているボトルネックが特定されているか」「例外処理が現場の知見から棚卸しされているか」「標準化と現場裁量の境界が決まっているか」といった観点で確認できます。すべて十分に揃えることを目指すよりも、「どこがボトルネックになっているか」を見つけるために使うほうが有効でしょう。
まとめ:「ツールはあるのに忙しい」を抜け出すために
DXは、導入した瞬間に急激にうまくいく、といった類の施策ではありません。導入後に、どんなDX人材活用につなげたか、どんな業務再設計で現場力を育てたかで、結果が分かれる取り組みです。
省人化に寄せすぎると、摩擦は増え、管理職の調整が増え、現場は判断できなくなる。「ツールはあるのに忙しい」状態のできあがりというわけです。一方、DXを付加価値集中の再設計として捉え直すと、浮いた時間が価値創出の原資になり、現場は判断材料と裁量を持ち、改善が回り始めます。
そのために経営と人事が最初に答えを出すべき問いは、
「DXで浮いた時間は、誰が、どの価値に使うのか?」
ということでしょう。
この問いを前にすれば、DXは省人化であるという議論から離れ、人が価値を生むための設計となります。企業分析ハック氏が示すように、数字に出にくい「人の力」は、設計次第で強みにも弱みにもなります。だからこそ、DXは人材活用の設計として扱う必要があるのです。
本記事は、HUMAN CAPITAL+で掲載した企業分析ハック氏への第一人者インタビューを土台に、DX人材活用を「省人化」ではなく「付加価値に集中させる業務再設計」として捉え直すための論点を整理した解説編です。発言の背景にある考え方や、より具体的なエピソードを立体的に知りたい方は、ぜひインタビュー本編もあわせてご覧ください。
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