突如、全ホワイトカラーワーカーに「めちゃくちゃ賢いインターンが10人」ついてきた。でも「何から頼めばいいか」がわからない。これこそがAIエージェント時代の本質的な問いだ。レクター代表取締役・広木大地氏とHRBIZ事業責任者・藤村大輔氏に、AI活用の現在地と人間の価値について聞いた。前編ではまず広木氏に、AIエージェントの全体像と人間の価値について語ってもらった。
「道具を持って自分で考えるAI」、その正体

— まずそもそもの話から確認させてください。「AIエージェント」とは何か、従来のAI活用との違いを教えていただけますか。
広木:2023年ごろから、AIが自発的に考えてタスクをこなせるようになってきました。ただ指示された通りに動くのではなく、「こうやったらいいんじゃないか」「ああやったらいいんじゃないか」とやり方を自分で決められるようになってきたのが、ここ数年の話です。
そこで注目されてきたのが、「AIに道具を渡すと、仕事をもっと自律的に進めてくれるんじゃないか」という発想です。AIのモデルが進化するにつれて、道具や考え方をちゃんと提示しておくと、今まで人間がやっていた仕事をAI自身がこなしてくれるようになってきました。
— 「道具を渡す」というのは、具体的にどういうことでしょう?
広木:例えばチャットにテキストを入力して答えをもらう、という使い方だと、AIはウェブ検索ぐらいしか道具を持っていない状態です。そこに様々なツールを渡していく。勤怠管理システムの操作方法、Googleドライブなどのファイルシステムへのアクセス、メールの送受信……そういった道具を持たせることで、依頼された業務を自分でこなしていくことができるようになります。
この、道具を持って自分でやり方を考えて動くAIのことをAIエージェントと呼ぶようになっています。「どんな業務をどういう形でAIに任せるか」という問いが生まれてきたのが、ここ一、二年の話です。
任せられる時間が延びた。AIが10〜20時間動き続ける時代へ

— AIエージェントの登場で、人間の仕事はどう変わってきていますか?
広木:一番変わったのは、「任せられる仕事の時間がざっくり長くなった」ことです。
ちょっと前まで、AIは新卒社員のような存在でした。「これやっていいですか?」「このやり方で正しいですか?」とどんどん確認を求めてくる感じです。それが今では、10時間、20時間でも平気でタスクをやり続ける設定ができるようになってきました。
つまり、一晩中作業してくれる、あるいは人手が足りない部分を全部カバーしてくれる存在になりつつあるわけです。
— 一人の部下として扱える時代、ということですね。
広木:そうです。その部下がいくらでも増やせるというところが、なかなか頭の切り替えが難しいところでもありますね。
資金も人も揃った。さて何から指示するか
— 部下が増えると、今度は「何をやらせるか」が問われてきますよね。
広木:それは重要なポイントです。例えていうなら、突然めちゃくちゃ部署が増えて、資金調達もできて、人も雇える状態になった。「このプロジェクト回してください」と言われた時に、さて何からどう指示すればいいのか。これって、結構困る方が多いと思うんですよ。
仕事が大きくなってはじめて直面する壁です。それと同じことが、突如「全ホワイトカラーワーカーに、めちゃくちゃ賢くて何でもできるインターンが10人つきます。ただしあなたが頼まないと何もしません」という状態として押し寄せてきている。これが今現在のAIと私たちとの関係かなと思います。
— 「頼む力」そのものが問われる時代がやってきたということでしょうか。
広木:そうですね。1年後、2年後には「AIが仕事をこなしてくれるのが当たり前」になっているはずです。その時に、1個頼んだらやってくれる。じゃあ次は何を頼む? その問いに答えられる人と答えられない人で、大きな差が生まれてくるでしょう。
活用の濃淡を生むのは、技術の壁より大きな何か
— 実際に様々な現場を見ていて、活用の進み具合にはかなりグラデーションがあるように思います。何が違いを生んでいるのでしょうか。
広木:会社ごとにも、会社の中でも、かなり濃淡がありますね。ただ面白いのは、「技術やテクノロジーに詳しいかどうか」はあまり関係ないということです。技術的なことは、やってしまえば乗り越えられる。極端な話、小さな壁なんですよ。
本当に大きな壁は、「そもそも指示したい内容があるのか」「やらせたいことがあるのか」というところにあります。
— 動機と目的の問題、ということですか。
広木:インターネットが出てきた時と同じ構図だなと思っています。「世界中の人と繋がれます」と言われたとき、実際に世界の人とコミュニケーションしてビジネスを作った人って、どれだけいたでしょうか。
ほとんどの人はローカルなサイトを見て、用意されたコンテンツを楽しむ消費者として振る舞っていましたよね。
AIも同じです。「ソフトウェアエンジニアでない人がソフトウェアを作って社会に公開できます」「今まで縁のなかった分野に挑戦できます」。でも本当にやるかどうかは、その人の中から湧き出てくるものがあるかどうかにかかっています。
インターネットが来た時と同じ構図。消費者で終わるか、生産者になるか
広木:もう一つ言うと、会社で座っている時間に、自分の業務以外のことを掘り下げてやっていく人ばかりではないですよね。自分の仕事がひと段落すると、そこで使うのをやめてしまう。「言われてないから」「自分の仕事じゃないから」ということで、システムを作ってみたり、AIを使って調査したりという発想が出てこない。
結果として、自分の中から湧き出てくるものがある人はめちゃくちゃ進んで使うし、湧き上がるものがない人は技術に詳しくても何かをやり出そうとはならない。
— エクセルの話もよく例に出されますよね。
広木:そうです。エクセルで表計算できるようになったのに、我々は方眼紙代わりに申請書を作って印刷してハンコを押す民族なんですよ。AIを使ってもブルシットな仕事はいくらでも作れる、ということには自信を持っていい(笑)。
本来であればインターネットが普及したタイミングで申請書類はワークフローツールに変わっていてもおかしくなかったし、エクセルは表計算ソフトであって記入用紙じゃないんだから、方眼紙フォーマットで作り続ける合理的な理由もない。でもそうなっていない。AIが来たからといって世の中が一気に合理的になるほど、私たちは賢くも愚かでもないんですよ。
指示待ちは「気持ち」ではなく「能力」の問題だ
— 「指示待ち」かどうかが活用を左右する、という話が出ましたが、それは気持ちや姿勢の問題というより、もっと本質的な何かのような気がします。いかがでしょうか?
広木:能力の問題だと思っています。「こんな仕組みを作ればこの問題は解決するはず」と考え、方針を議論して意思決定して、実現していくまでの指揮命令ができるかどうか。これはリーダーシップであり、事業理解であり、ビジネスの流れのどこがボトルネックかを把握している力です。
「指示待ちでない」ということの背景には、理解度の高さがある。マネジメントやリーダーの立場に上がった人が、初めて「自分でやることを決めなきゃいけない」ゾーンに入りますよね。それと同じことが、突然全人類に押し寄せているわけです。
— 経営陣側も、それを前提にできていない、ということもありますよね。
広木:そうなんですよ。「一人で10人分働けるやつがいる」となった時に、残り9人いらないのか、他のことをやってもらうのか。経営側もどこまでできるかわからないし、どう決めたら良いかがわからない。
「AI活用したらコストが下がるんじゃないか」という期待感だけが先行していて、現場のメンバーは特に指示もされていないから大きな仕事をする必要がない。「なんかできることが増えてるな」と感じているのが今の状況なのかなと思います。
AI時代における人間の価値を、古代ローマの奴隷と市民から考える

— そういう状況の中で、「人間にしかできないこと」を問う声も多いですよね。広木さんはどう考えますか?
広木:まず、「人間にできてAIにできないことが原理的には存在しない」と思っています。今現時点で得意でないことは構造的にありますが、それは一時的なものです。
例えば、「謎かけ」ってありますよね。実はAIはあまり得意じゃないんです。同音異義語を駆使するあの形式は、AIがトークン単位で言語を認識する構造と相性が悪い。フリースタイルダンジョンみたいなラップバトルも同じです。でも「だからラップは人間の領域だ」とはならない。そこに価値があると分かれば、AIがラップに特化したアーキテクチャで学習して、一年もかからず追い抜いてしまうでしょう。
「人間だけができる領域を探す」という考え方自体がずれている、と思っています。
— では、人間の価値はどこにあると考えると良いのでしょうか。
広木:古代ローマの奴隷と市民を考えると分かりやすいんですが、奴隷と市民の間に本質的な能力の違いはなかった。同じ人類ですから。でもやれることには違いがあった。何かというと、「市民としての権利を持っているかどうか」です。
僕らは人間であること、権利を持っていること、消費者であること。これが唯一の価値になります。AIは自発的に意思を持てないし、口座も持てないし、手足も持てない。AIが何かで儲けても、それはAIのものにはならない。あくまで誰かの権利のもとで動いている。
— 権利を持った意思の主体であることが価値であるということですね。
広木:そうです。私たちはAIに意思を込めることができる。そしてその意思の先に、人事評価であれ採用であれ、「恣意的なものを排除して公正に評価する」という目標がある。人間が面接するからこそジェンダーバイアスが生まれてしまう。目的のために合理的であるための仕組みを、これまで取り入れることができなかった。AIはその壁を取り払う可能性を持っています。
それが後編で詳しく話しますが、人事の現場をどう変えていくか、という話につながってきます。
後編「人事よ、欲求はあるか。AI時代の評価・組織・そして何から始めるか」へ続く









