フリーランスは「先生」でも「下請け」でもない。インサイダーとして迎えるとき、組織は本当に強くなる。— フリーランス協会平田麻莉氏インタビュー

フリーランス法が施行されて約1年。制度の整備は一歩前進したが、企業が外部人材を「戦力」として本当に活かせているかは、また別の話だ。

「お客様扱いも、下請け扱いも良くない」

2017年にフリーランス協会を立ち上げ、フリーランス法の制定にも深く関わってきた平田麻莉氏はそう言い切る。フリーランスとは何者なのか。企業と個人はこれからどう関わり合うべきか。人材の流動化が加速する時代に、人事は何を変えるべきか。法整備から組織論、自らのキャリアまで、縦横に語っていただいた。

平田麻莉氏プロフィール

一般社団法人フリーランス協会 代表理事

慶應SFC在学中にPR会社ビルコムの創業期に参画。研究者を志し、ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、慶應ビジネス・スクール修了。博士課程へ進学するも出産を機に中退。フリーランスで段階的に社会復帰し、2017年にフリーランス協会設立。非営利で全員複業の当事者団体として、フリーランス法の成立やフリーランス向け福利厚生の提供など、新しい働き方のムーブメントづくりと環境整備に尽力。政府検討会の委員・有識者経験多数。

慶應義塾大学 Keio LEAP for Nonprofit特任助教。Co-Innovation University准教授。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」受賞。

フリーランス法1年——何が変わり、何がまだ変わっていないか

昨夏に第三子を出産。取材当日も子連れワークスタイルで臨んでいただいた。

— フリーランス法の施行から約1年が経ちました。現場ではどのような変化が起きているのでしょうか。

毎年実施している「フリーランス白書」で、昨年11月に施行1年後の変化を調査しました。ポジティブな変化として多かったのは、取引条件の明示が進んだという声です。もともとしっかりされていた企業も多いとは思いますが、長年の付き合いで口約束になっていたケースでも、きちんと明示してもらえるようになった、という実感が広がっています。フリーランス側でも、「契約書をちゃんと読んで理解しなければ」という意識が高まってきた。

法律でわかりやすく変化が見られるのは、3条の取引条件明示や4条の60日以内の支払いあたりです。一方で、13条の育児・介護との両立配慮義務や、14条のハラスメント対応については、「何をすれば対応したことになるのか分かりづらい」という声が企業側から多く寄せられていました。

この点については今年度、厚生労働省の事業で、企業がどう取り組むべきかの解像度を上げるための周知用ひな形・解説動画・事例集が整備されました。私も委員を務めましたが、良いアウトプットができたと思っています。実際にやるべきことはそれほど難しくありません。多くの場合、すでに従業員向けに実施していることを、フリーランスにも適用していただくだけでいい。その理解が広がることを期待しています。

— 2026年になって、人事担当者のフリーランスへの見方は変わってきていますか。

世間一般での理解はだいぶ進みました。かつてよく言われていた「フリーターと何が違うの?」と聞かれることはなくなりましたし、フリーランスがプロフェッショナルな専門職であるという認識も広がっています。副業についても、収入補填ではなくキャリア投資として前向きに選ぶ人が増えてきた。

ただ、人事担当者という文脈に限れば、フリーランスを「戦力として活用する」という発想にはまだ届いていないケースが多い印象です。「興味はあるけど、どう付き合えばいいか分からない」という段階の方も少なくない。周知・啓発がまだ必要だと感じているところです。

「傭兵」を迎えるということ:「インサイダー化」という発想

— では、企業の人事担当者はフリーランス活用についてどう考え方を変えるといいでしょうか。

フリーランスという言葉は、もともと「傭兵(Free Lance)」が語源です。必要なときに必要なだけ、プロの戦力として来てもらう。それは決してネガティブな話ではなく、むしろ今の時代の組織運営に合った考え方だと思っています。

VUCAの時代といわれて久しいですが、突発的な課題対応や新規事業への挑戦は増えるばかりです。日本では一度雇用したら原則として解雇が難しい制度である以上、専門人材を社員としてプロジェクト単位で採用することにはどうしてもハードルがあります。かといって既存社員を育成して対応しようとするのは、時間もコストもかかる。結果が出にくいことも少なくない。

そこにフリーランスを活用する余地があります。うまくいくコツは、「外注」ではなく「インサイダー」として迎えることです。チームの一員として、内部の情報にもフラットにアクセスできる状態で関わってもらう。フリーランス側も特定の組織にしがみつきたいわけではなく、自分のスキルや経験が活きるフィールドを求めて柔軟に動いています。だからこそ、自分のミッションが完了したら気持ちよく次の現場へ向かえる。その関係が、お互いにとって自然な形だと思います。

— 「有期契約では、うちへのコミットが下がるのではないか」という企業側の不安はどう考えますか。

有期だから良くない、ということではないと思っています。重要なのは、ちゃんとオーナーシップを持って関わっている期間にパフォーマンスをしっかり発揮してもらえるかどうかです。

帰属意識は、掛け持ちができるんですよ。私自身、フリーランス協会の仕事をしながら、2つの大学での教員の仕事や、取締役を務めている会社もあります。でも、どれひとつとして他人事なものはなく、どの組織においても主語は「We」です。

そもそも、正社員でフルコミットしている人だって、家族があり、地域があり、趣味や子どものPTAもあるかもしれない。その人の時間とマインドの100%を1社で独占できているわけでは、もともとありません。それと同じで、副業や複業によって「うちへのコミットが下がるのでは」という不安は、ある種の思い込みだと感じるんです。

本質的には、やりがいのあるミッションと働きやすい環境を提供し、その人がパフォーマンスを出してくれればいい。そこを仕組みで担保するのが人事の腕の見せどころです。評価基準が「KPIやミッションの達成」という明確なものであれば、雇用形態に関係なく公正に評価できます。そういった評価制度を持てている企業は、多様な人材をうまく組み合わせて力を発揮させています。

キャリア自律と組織の関係性——「生殺与奪の権を他者に握られない」

— 協会のビジョンとして「キャリア自律」が掲げられていますね。どういった意味合いが込められているのでしょうか。

「生殺与奪の権を他者に握られないこと」だと、シンプルに説明するようにしています。

日本の大企業の雇用は、これまでパターナリズム的な構造をもっていました。雇用が保証される代わりに、異動も転勤も会社の判断に従う、ということです。一昔前は「男足るもの、単身赴任で子どもの成長に立ち会えなくても受け入れるべし」という考え方も珍しくありませんでしたよね。

フリーランスを選ぶ人たちは、キャリアの手綱を自分で持ちたいという意識が強い方が多い。どんな仕事を、どこで、誰とするか、自分で決めたいということです。それは単なる自由への欲求ではなく、キャリアへの能動的な関わり方です。企業側がそのマインドを尊重できると、対等なパートナーとしての関係が生まれると思っています。

終身雇用という概念についても、今は見直しが迫られている時代です。65歳で引退してもそこから30年近い人生が続くかもしれない。身を終える間近まで雇用に守られていると思っていたのに、その前提が揺らいで会社の看板が外されたとき、市場に出て戦う術が手元に何も残っていない。そういった状況の方が実際に増えています。だからこそ、在職中から副業の機会を与えたり、社外のフィールドへ出ていく経験を積んでおくことが、本人にとって結果的に大切なことだと思います。

人が思わず集まる問いの立て方——「勝ち馬になる」とは?

— 平田さん自身が組織を運営される中で、人が自然と集まり、自走していく仕組みをどうつくっているのか、伺えますか。

集め方と、集めた後の場づくりの両方を大事にしています。

集め方でいうと、まずビジョンやミッションへの共感があること。ただしそれが「絵に描いた餅」では意味がなくて、日々の活動の中でそこに向かっているという実感が持てることが重要です。

その時に私がよく使う表現が「勝ち馬になる」ということです。「勝ち馬に乗る」という表現をもじったものですが、乗りたくなる馬というか、乗りたい船、というイメージですね。「このチームで働くと手応えが得られる」「社会のためになっている実感がある」という状態をつくることが大事です。どれだけ一生懸命取り組んでも「誰のためになっているのか分からない」「内向きな仕事だな」となった瞬間に、人はやる気を失います。数字的に一番でなくても、意味付けをきちんと続けることで、人が乗りたいと思う船になる。自分の人生の貴重な時間を投じる価値がある場所だと思ってもらえることが、一番大切なことです。

集めた後の組織の在り方としては、「自走する組織」を目指しています。人を動かそうとするより、自然と動いてくれる状態をつくりたいなと。そのために大切にしているのが、情報を「オープンかつオンタイム」に共有することです。できるだけあらゆる情報に、誰でもリアルタイムでアクセスできる状態をつくる。情報が限られていると、人は判断に迷ったり、方向性を見誤ったりします。情報が豊富なほど、一人ひとりが最適解を自分の頭で考えて動ける。これはフリーランスや副業人材を活用する企業にも同じことが言えて、社員とそれ以外で情報アクセスに差を設けてしまうと、その人の強みや価値を最大化できません。フルフラットに情報を共有することが、外部人材の力を引き出す第一歩だと思っています。

ネットワーク型組織へ——「サテライト社員」という発想

— 企業と個人のこれからの関係性について、どんなイメージを持っていますか。

コロナ以降、組織はネットワーク化が進んでいると感じています。かつては雇用している社員とそうでない人の間に厚い壁があり、内部の事情は外には見せないという、ある意味「ファミリー企業」的な発想が強かった。でも今、その壁はだいぶ溶けてきている。

これからは、社員として雇っている人以外も含めて、広くヒューマンリソースとして関係を持っておく発想が企業の強さになると思います。フリーランス、副業人材、アルムナイ(退職者)、かつてインターンとして関わった人まで含めて、緩くネットワーク化しておいて、必要なときに必要な人をアサインできる。そういった体制を持てている企業は強いですし、できていないとじわじわとシュリンクしていくと感じます。

副業している社員のことを「サテライト社員」と呼ぶことがあります。衛星のようにいろんな場所へ出ていって、自社のことを発信してくれたり、外の知見を持ち帰ってくれたりする。これは会社にとって非常に価値のあることです。副業を「コミットメントの低下」と見るのではなく、組織の広がりとして捉えると、人事の発想はだいぶ変わってくると思います。

— 外部人材を受け入れる上で、企業が特に気をつけるべきことを改めて教えてください。

「先生扱いも、下請け扱いも良くない」とよく言っています。

教えを乞う先生感覚だと、本音を言いにくかったり、内部の課題を開示できなかったりする。外注の下請け感覚だと、タスクベースの話に終始したり、コミュニケーションが雑になったりする。どちらも、その人の力を最大限に引き出せていない状態につながります。

特に人事・広報・マーケティングなど経営に関わる上流の仕事では、優秀なフリーランスが多く活躍しています。こうした領域では、担当者との点と点の関係ではなく、組織全体で「面」として受け入れる構えを持つことが、フリーランスが得られる情報量を増やし、主体性を持って動いてもらいやすくなります。アウトソースではなく、インサイダーとして迎えるという意識を、今以上に持っていただけるといいと思います。

フリーランス協会の次の10年へ

— 協会を立ち上げてから10年が経ちます。最初に解決したかった課題と、今後の展望を教えてください。

立ち上げ当初に解決したかったことは大きく二つありました。一つが契約トラブルの問題、もう一つがフリーランスのセーフティネット、つまり社会保障の問題です。

前者は、フリーランス法の制定というかたちでひとつの到達点を迎えました。周知・施行の面での取り組みはこれからも続きますが、法律という基盤ができたことは大きかったと思っています。

後者の社会保険・社会保障については、「大事だよね」という認識は行政・政治の中でも広がってきましたが、具体的な制度設計はまだこれからです。今年度からは社会保険に関する調査・発表に力を入れており、国の制度が追いつかない部分については、民間として保険や福利厚生の提供を続けています。おかげさまでベネフィットプランも毎年拡充しており、会員総数は14万人に達しています。フリーランスのインフラとして認識していただけるようになってきたことはありがたいことです。

協会自体をサステナブルな組織にしていくこと、特に次の世代へのバトンの渡し方も、今後の大きなテーマです。

— 最後に、これからの企業と人材のあり方について、一言いただけますか。

今は、人材獲得の市場が大きく広がっています。かつては新卒市場と転職意向が顕在化した中途市場だけが採用の母集団でしたが、今は在職中でも副業やフリーランスとして関わろうという人たちも含めて、その間口は格段に広がっています。

人口減少の時代に、これは大きなチャンスです。ただし、そのチャンスを活かすためには、雇用形態に関わらず人材をフラットに受け入れる組織の構えが必要になる。そのために人事が何を設計するか。「外側にいる人を内側に迎える」発想の転換が、これからの組織の強さを決めると思っています。

【編集後記】「対等」はまだ、途上にある

「この指とまれ」でいい、と平田さんは言います。

声をかけてみて、乗ってくれた人と始める。強制せず、縛らず、けれど船として乗るに値するものをつくり続ける。フリーランス協会設立から約10年、そのスタンスは一貫しています。

取材を通じて繰り返し浮かびあがったのは、「対等」という言葉でした。企業とフリーランスが対等に、個人と組織が対等に。聞こえはシンプルですが、日本の雇用文化において「対等」は、まだ当たり前ではないでしょう。

フリーランス法の施行から1年。制度は整いましたが、マインドはまだまだ途上にあります。「外注でも下請けでもなく、インサイダーとして迎える」という発想が人事の現場に根づいたとき、企業と個人の関係は次の段階に入るのだと思います。

法律を作るより、文化を変える方が時間がかかります。それでも「やってみれば意外と簡単だった」という企業が一つずつ増えていく。その先で、より良い「働き方の未来」が描かれていくのでしょう。

関連リンク

一般社団法人フリーランス協会公式サイト

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執筆者
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