フリーランス支援側×人事労務弁護士が紐解く「人材戦略の今」!フリーランス活用でさらなる企業成長を

労働人口が減少する中、企業によるフリーランス活用事例が増え、フリーランス活用を前提とした人材戦略を描くことで成長している企業も多く見られるようになりました。 そんな中、2024年11月1日にフリーランス法が施行。この新法は、フリーランスとの取引の適正化、就業環境の整備を目的としています。企業がフリーランスを活用する上で何が変わるのでしょうか。今回の施行をうけ、フリーランスを活用した人材戦略をテーマに専門家によるセミナー・イベントが実施されました。登壇したのは、人事労務分野を専門とする藤田豊大弁護士(法律事務所ZeLo)と人材戦略のプロフェッショナルである藤村大輔(HRBIZ 事業責任者)。2名によるセミナーから内容を抜粋し、フリーランス保護新法の概要とこれからの人材戦略のポイントやリスクをまとめました。企業成長のヒントが詰まったイベントレポートをお届けします。

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編集部

「HUMAN CAPITAL +」の編集部です。社会変化を見据えた経営・人材戦略へのヒントから、明日から実践できる人事向けノウハウまで、<これからの人的資本>の活用により、企業を成長に導く情報をお届けします。

人材戦略と人事戦略の両輪で組織運営をすることが必要

企業と人材の関係は、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の影響を一層受ける時代となっています。

かつては企業が人材を選ぶ時代でしたが、労働人口の減少が進む今、逆に企業が人材に選ばれる必要があるということは誰しもが感じられる変化でしょう。

採用市場で選ばれ、定着する組織を作るには、人材戦略と人事戦略が欠かせません。

「人材戦略は、自社が求める人材像やその活用方法を考えるものです。一方で、人事戦略は採用後の配置や育成、組織づくりといった具体的な施策を進める部分。両者はつながっていますが、土台となるのは中長期的な視点で描かれる人材戦略です。」(HRBIZ 藤村)

人材戦略には、人材ポートフォリオ、人材ポリシー、人材ロードマップの3つが重要です。人材ポートフォリオは、戦略実現のために必要な人材の職務・職能や要員数を設定するものです。例えば、創造・変革を目指すならタレントマネジメント人材が、短期的な業務効率化にはオペレーション人材が必要になるなど、企業ごとに異なる設計が求められます。

人材ポリシーは、具体例を示すことで分かりやすくなります。例えば、信用に足る優秀な人材のみを採用する方針がある場合、リファラル採用を推進し、社員の紹介意欲を高めるために紹介料などのリターンを工夫する必要があります。このように、ポリシーを明確にすることで必要なアクションが見えてきます。

人材ロードマップは、人材ポートフォリオと人材ポリシーを基にした数か年計画のことです。例えば、2025年度はオペレーション人材の採用強化に注力し、2026年度にはタレントマネジメント人材の育成と採用を進めるといった具合に、経営に結びつく具体的な人材戦略が描かれます。

人材ポートフォリオ、人材ポリシー、人材ロードマップの3つを軸に人材を考えることは、人材戦略の重要ポイントです。

従業員とフリーランスを比較

企業が人材戦略を考える上で、フリーランスの活用は重要な要素です。従業員との違いを正確に把握することで、適法かつ効果的な活用が可能になるでしょう。

従業員とフリーランスの大きな違いは契約形態です。従業員は雇用契約に基づき、定期的な給与を受け取りながら企業の指揮命令に従います。一方、フリーランスは業務委託契約や請負契約に基づき、多くの場合が複数の委託者とプロジェクト単位で働きます。委託者である企業は、フリーランスに対して業務内容を指定することは可能ですが、細かな命令や進め方の指示はできない点に注意が必要です。

従業員は勤務時間や場所について会社の規則に従いますが、フリーランスは自分の裁量で柔軟に調整可能であることが多いです。経済的には、従業員は安定した給与を得られる一方、フリーランスは案件獲得次第で収入が変動します。成長機会においても、従業員は会社から研修やキャリアアップの機会を提供されますが、フリーランスは自らスキルアップの機会を作る必要があります。

会社目線で見ると、従業員には労務管理コストや社会保険料の負担があり、採用には人材会社経由で理論年収の35%程度の手数料が発生することが多いです。一方、フリーランスは相対的に管理コストが低く、社会保険料の負担も不要です。採用コストについては、採用時に一定の金額を一括払いする必要がない形態も見られます。さらに、管理会計上、従業員の給与は固定費と分類されることが多いですが、フリーランスの報酬は変動費に分類されることが多く、経営の柔軟性が高まります。

従業員は、在職中の競業避止義務を当然負うと解されることが多く、また副業を禁止することも可能です。これに対してフリーランスは当然競業避止義務を負うわけではなく、競業避止の合意を受け入れてもらえる可能性も限定的ですし、他の委託者からの業務を受けず、自社にのみ専念してもらう合意を受け入れていただけるハードルは更に高いです。また、従業員の解雇には法的ハードルがありますが、フリーランスの契約終了(契約解除)は相対的に容易となっています。ただし、フリーランスを従業員のように取り扱ってしまう場合には「偽装フリーランス」のリスクがある点には注意が必要です。

「専門性の高い人材を急いで探す場合、従業員を雇うのは育成の時間やコストの面でハードルが高いため、フリーランスの活用が適していると言えます。一方で、従業員の方がロイヤリティを醸成しやすく育成もしやすいというメリットがありますが、会社の工夫次第ではフリーランスにもMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を浸透させ、人材育成につなげることが可能な場合もあります」(法律事務所ZeLo 藤田弁護士)

国内市場におけるフリーランス活用の動向

労働人口が減少する中、フリーランスの活用はますます広がっています。正社員採用にこだわりすぎると、優秀な人材を逃す可能性があるため、企業は外部の労働市場を広く捉える必要があります。

2020年に1062万人だったフリーランス人口は2021年には1577万人に増加(ランサーズ調べ)。フリーランスを活用した企業の89.1%が、イノベーションへの貢献を実感しています(テックビズ調べ)。活用理由としては「即戦力の確保」が最多で、次いで人材不足の解消や柔軟に働ける人材の確保が挙げられます。

「特に大企業の新規事業部門などでフリーランスの受け入れが増えています。即戦力を求めるだけでなく、外部環境で専門性を磨いたフリーランスを活用することで、組織のイノベーションが進むというメリットがあります」(HRBIZ 藤村)

さらに、成長企業ほどフリーランス活用が進んでおり、非成長企業の14.2%に対し、成長企業では30.5%がフリーランスを活用しています(テックビズ調べ)。

フリーランス活用事例から見る人材戦略の成功法

ここからは実際にフリーランスをうまく活用している企業事例を紹介します。前述した人材ポートフォリオのどの領域においてフリーランスを活用するかを事前に設定することが求められます。

あるフィンテック企業では、従来は派遣社員やBPO企業に任せていたオペレーション業務を、最近ではフリーランスにも委託するようになりました。これにより、オペレーション人材の母集団が広がるという利点が生まれました。

また、PM/POやCXOなどのプロフェッショナル人材の採用では、即戦力確保はもちろん、外部の高い専門性を活用して社内人材の育成も実現しています。

また、ある企業では、正社員とフリーランスを問わない採用活動を行っています。正社員に限定することで理想の組織が作れないのは本末転倒との考えからです。正社員採用が難しい部署には、まずフリーランスも含めて人材を配置し、その後、配置替えや組織開発、エンゲージメント向上施策を進めています。

「従業員とフリーランスを一定の部分で区別なく扱うのは合理的な面もありますが、注意が必要です。形式上はフリーランスであっても労働者性が認められる場合があり、偽装フリーランスとして取締まりの対象になります。専門家の支援を受けつつ、どこを同じ扱いにし、どこを区別するべきかを明確にする必要があります。この点をクリアできれば、フリーランス活用で他社をリードできるでしょう」(法律事務所ZeLo 藤田弁護士)

労働人口が減少する中、正社員とフリーランスという多様な選択肢を持つことが、人材戦略の鍵となります。

フリーランス新法施行による影響とは

2024年11月1日、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称フリーランス法が施行されました。フリーランスの活用が広がる中、この新法は大きな意味を持ちます。

フリーランス法の目的は大きく2つ。①取引の適正化、②就業環境の整備、です。この法律により、フリーランスの取引環境が改善され、働きやすい環境が整備されることを目指しています。

①取引の適正化は、独占禁止法や下請法などの延長線上にあります。発注者が取引を有利に進めるために、フリーランスに不利益を強いる行為を規制する内容が明文化されました。

大きな変化として、発注時に取引条件をテキストで明示する義務が新たに加わりました。これにより、口頭契約によるトラブルを防ぎ、書面やメール、SNSのメッセンジャー機能などに記録が残る形での発注が求められます。

さらに、報酬支払いの適正化も進み、支払時期が法律で定められました。1ヶ月以上の業務委託では、フリーランス側に責任がないのに、委託者返品することや報酬減額をすることが禁止されています。

②就業環境の整備では、フリーランスも従業員と同様に保護されるべき部分がある存在とし、一部、労働法的な視点が取り入れられました。

ハラスメント防止策として、ルール設定や相談窓口の設置が義務付けられました。

また、6ヶ月以上のフリーランスについては業務と妊娠、出産、育児、介護との両立への配慮義務も明文化されました。さらに、契約解除には原則30日前の予告が必要となり、フリーランスが理由の開示を求めた場合、これに応じる義務も追加。これにより、不当な解除に対して契約継続を交渉できる余地が生まれました。

取り締まりが強化される偽装フリーランス

フリーランス法には明記されていないものの、「偽装フリーランス」の取り締まりも強化されます。偽装フリーランスとは、業務委託契約でありながら実態は従業員と同じ雇用的な働き方をさせる状態を指します。企業が社会保険料負担や労働時間管理のコストを避ける目的で行われるケースが背景にあります。

法施行に伴い、労働基準監督署に相談窓口が設置され、国としても取り締まりを強化。フリーランスが働きやすい環境づくりが進められています。

「フリーランス法で発注者が守るべきルールが増えましたが、これを理由にフリーランスが使いにくくなると考える企業もいるでしょう。しかし、中長期的に見ればフリーランス化の流れは止まらないと考えます。新法により働き手がフリーランスを選択しやすい環境が整ったことで、さらにフリーランス人口が増加することが予想されます」(法律事務所ZeLo 藤田弁護士)

求職者有利の売り手市場が続く中、フリーランス活用を前提にしないと企業が人材ポートフォリオを十分に構築できない可能性も出てきました。企業は法を遵守しつつ、自社の人材戦略においてフリーランスをどのように活用するか、真剣に向き合う必要があります。

フリーランスの活用を前提とした人材戦略が成功法となる

フリーランス法の施行により、フリーランスが安心して働ける環境が整備され、今後さらにその存在感は増していくでしょう。一方で、正社員採用のハードルはますます高まり、従来のやり方では優秀な人材を確保することが難しくなる時代が訪れています。

この変化の中で、フリーランスを上手に活用することこそ、企業が競争を勝ち抜き、持続的な成長を遂げるための鍵となります。規制をチャンスと捉え、柔軟かつ戦略的な人材活用で、新たな時代の人材戦略を描いていくことが求められています。フリーランス活用をただの選択肢ではなく、企業の未来を切り拓く武器として捉え、前向きに取り組む姿勢が重要だといえるでしょう。

今回のフリーランス保護新法施行への対応をはじめ、フリーランスとして働く方やフリーランスと取引を行う企業のご担当者でお困りごとや相談事項があれば、株式会社テックビズまたは法律事務所ZeLoまでお気軽にお問い合わせください。

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★イベントのQ&Aまとめ記事はこちら:https://humancapital-plus.com/journals/1120shinpo_qa/

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▶「TECHBIZ」について

「働き方を変え、世界を変えていく」をスローガンに掲げ、国内最大級のITフリーランス向けエージェント「テックビズフリーランス」をはじめとした、個人と企業のマッチングサービスを提供。専任コンサルタントによる、テクニカルスキルとヒューマンスキルの双方からの高品質なマッチングによって、継続稼働率は約97%を実現。創業以来、「人生を豊かにする新たな働き方の創造」というパーパスのもと、人生を豊かにする新たな働き方の創造を目指す。

法律事務所ZeLoについて

2017年3月に設立された企業法務専門の法律事務所。スタートアップから中小・上場企業まで、企業法務の幅広い領域でリーガルサービスを提供している。AI契約審査プラットフォームを開発する株式会社LegalOn Technologiesと共に創業し、リーガルテックやITツールを積極的に業務に取り入れている。グループファームであるZeLo FAS株式会社と税理士法人ZeLoと連携する。

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HUMAN CAPITAL + 編集部

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