「未来へつながる時を生む」という志を掲げ、経理AIエージェントを提供する株式会社TOKIUM。創業から着実に成長を続ける同社は、単なる業務効率化ツールの提供にとどまらず、企業が挑戦する時間を創出することで、より良い未来の実現を目指している。
2016年には組織崩壊の危機に直面しながらも、その経験を糧に独自の組織文化を築き上げてきた同社。AIエージェントが業務を代行する時代を見据え、人の価値をどう定義し、組織をどう進化させていくのか。
代表取締役兼CPOの黒﨑賢一氏に、人的資本経営の実践と未来への展望を聞いた。
黒﨑 賢一氏プロフィール

1991年生まれ。筑波大学在学中の2012年に株式会社TOKIUMを共同創業し、家計簿アプリ「Dr.Wallet」の提供を開始。2016年より、法人向けサービスへと事業転換し、「TOKIUM経費精算」、「TOKIUMインボイス」など5つのサービスを展開。2025年5月に「経理AIエージェント」の提供開始を発表。
東日本大震災が原点。「時間は命」という気づきから生まれた志

創業の原点にある「時間=命」という哲学
— まず、TOKIUMのミッション「未来へつながる時を生む」について、その背景にある思いをお聞かせください。
創業当時から「時を生む」ということにすごくこだわって運営してきました。創業する1年前に震災があって、そのタイミングで命を失っている人を見て、「もっと長く生きたかったはずなのに」というところで、命とは時間そのものだなと思ったんですよね。なので、時間を作れれば、命を救っているのと同じことなんじゃないかと考えながら創業したかたちです。
— 「未来へつながる時」という表現には、どのような意味が込められているのでしょうか。
未来へつながる時っていうのは、誰かのために調べて考えて、挑戦する時間というふうに、僕たちなりに定義しています。自分のための自由な時間が欲しいとか、そういう時間ではなくて、この世の中をもっと良くしたいんだという人が、いろいろ工夫しながら使ってる時間を増やしてあげたいなと思ってます。
もっと世の中を、こういう風に良くしたいんだという時間を増やせば、早くこの世の中が良くなると思っていて、それは未来が到来する時期が早くなることだと思っていて。僕たちが時間のインフラとなればいいなというふうに思っています。
サービス開発の原点
— 創業時は、サービスありきだったのか、思いありきだったのか、どちらだったのでしょうか。
多分同時にできたはずです。どんなものを作りたいかなと考えた時に、ゲームとかエンターテインメントっていうよりは、ツール寄りのものが作りたいなと思ってましたし、それってなんでなんだろうって思った時に、そういう考えがベースだったかなと思います。
— 各ステークホルダーにとって、TOKIUMはどのような存在になることを目指していますか。
まずはお客様のために存在する会社だと思っているので、お客様に挑戦する時間を届けたい。お客様にとってはTOKIUMと付き合っていれば、挑戦する時間がどんどん増えていく。TOKIUMから提供されるサービスをどんどん使い続けていれば、自社の活動できる時間が増えていくという存在になれたらいいなと思ってますね。
働く人にとっては、唯一無二のサービスを作っていくこととか、それを広げていくことが楽しいと思われる環境だといいなと思います。稼ぐために集まるっていう感じではないですね。
組織崩壊の危機から学んだ、チームビルディングの重要性

2016年の転機
— 2016年に組織崩壊の危機があったとお聞きしました。どのような危機だったのでしょうか。
当時起きたことは、お客様に対しての価値提供がしっかりできておらず、そこから業績が満たせていないということへの焦りから、その理由を組織の頑張りが足りないというところに落として、無茶な要求を慢性化させたことによって起きたのだろうと振り返っています。組織に分裂が起きたんですよね。
— その経験から、どのような教訓を得られましたか。
事業成長とか、お客様にいいサービスを作るっていうところの前提にあるのは、やっぱりチームとか仲間が一致団結していることだなという気付きです。どれだけいいサービスを作りたいと思って必死にがんばっても、チームが壊れて自滅してしまったら意味がない。その結果お客様も幸せにできないと思ったんです。
事業づくりの前に人づくりという言葉もあると思いますが、それが大事だなというふうに思って。特にソフトウェアのビジネスにおいては、チームがすごく大事なのだと思い至り、チームビルディングを重視した組織運営に、一気に舵を切った形になりますね。
長距離走への転換
— ご自身の中で、自己否定を伴うような場面だったと思いますが、どのように乗り越えられたのでしょうか。
別に特別信じる哲学みたいなものはないっていうのがあるかもしれません。たまたま一旦これかなと思って進めたやり方がうまくいかなかったってことだと思うので、もっといいやり方があるんだろうなと。今でも別に今のやり方が間違ってて、良いやり方があるんだったら、すぐそっちに変えたいっていうのは常に思ってますね。
僕は33になりますが、人格的にも人間的にも、経営能力的にも、技術的な部分に関しても、別に高い何かを持ってるわけじゃないと思っています。いいものがあれば教えてもらって、取り入れて学びたいなというのはあります。
— 具体的に、人との向き合い方はどう変わりましたか。
テキストのコミュニケーションばっかりじゃなくなったというか、対面で顔を合わせてご飯食べながら話したりとかを大事にするようになりましたね。お客様とたくさん会って、直接お話を聞いてサービスを作るってこともすごくするようになりました。
バリューを「使う」独自の組織文化

バリューワークショップという仕組み
— TOKIUMでは「バリューワークショップ」を実施されているそうですが、どのような取り組みなのでしょうか。
3カ月に一回やってまして、全社員が1時間ほど投下してやる全社研修です。バリューで3つ、Teamwork、Move Fast、Customer Successというのがあるんですけど、そこをベースに起きた事象に対して、どのように考えて行動するかっていうのを、ワークショップとケーススタディを組み合わせたかたちで実施しています。
例えば、お客様から何か要望があって、明後日までにこれやらなきゃいけない、チームの人は疲弊している、どうしますか?みたいな。結構ハードめな局面ですよね。上司側の立場はどうなんだろうとか、働く側からすると個人の事情として、実は子どもの送り迎えがあるタイミングだったとかあるかもしれないし。チームワークをすごく大事にするって言ってるのに、これはチームワークなのかという葛藤もある。
— バリューを「使う」という発想になったきっかけは何だったのでしょうか。
どうせだったら、バリューを事業の成功要因にしたいなというふうに思っているんです。この3つを選んだのは、それが今の時点における事業の成功要因に最も近いと思ったからです。それをたくさん使うことで、事業の成功が近づくという観点で選んで使っているというかたちですね。
日常的な仕組み
— 他にもバリューを浸透させる工夫はありますか。
毎朝日替わりで発表する人が変わるんですけども、「マイバリュー賞」っていう形で、自分が感謝を伝えたい人を表彰する制度があります。例えばカスタマーからのリクエストに対して、迅速に対応してくれたエンジニアに対して、営業から賞を贈ったりして。全員でその人の活躍を見て表彰するというのがあるんですよ。
あとは「goodvibes(グッドバイブス)」っていうSlackのチャンネルがあって、お客様からお褒めの言葉をいただいたシーンとかを共有する場所です。営業担当のこの人の説明よかったとか、導入時に寄り添ってもらえてすごく感謝してますみたいなのを投稿する場所になってて、全社員で共有できる場所になっています。
実力と人格の両立を重視する人事哲学

採用で見る視点
— 採用時は、どのような点にフォーカスされていますか。
他の人のためにどのように努力したのかとか、あとは非倫理的な行動を目にした時に、どのような対処をしたかとか、そういうのを見ています。企業倫理観のベースになる個人の倫理観とかすごく気にしてますし、あとは仲間を思いやるかどうかですね。
大きなことをなす、ユニークなものを作って、多くの人に届けるっていうのは、結構時間がかかることなので、長期的な取り組みになるんですよね。その際にチームの連携は必要不可欠なので、仲間と協力し合いながら困難を乗り越えていける人が来てほしいと思っています。
民主的な昇進プロセス
— 管理職の選出方法が特徴的だとお聞きしました。
年齢や中途入社といった経験、あるいは単に高い業務スキルだけで評価するわけではなく、人格や人徳、共に働く仲間からの信頼を重視するようにしています。チームのメンバーで入って、チームの中で評価されて、「この人であればリーダーシップを託したい、僕が部下だとしても一緒に働きたいな」と思えるいうリーダーが選出されていくような形で、課長、部長とかが決まっていくようなところがあります。
営業でめちゃくちゃ受注実績があったからといって、人徳とかがなければ、部長にはならないっていう、そういう感じなんですよね。業績評価のみではない。実力と人格・人徳が両方揃って管理職をお願いできるっていうふうな運用にしてますね。
— 採用への貢献も評価されるそうですね。
200数十名いるうちの社員のうち、半分ぐらいの人が採用活動に関わってくれていまして。リファラル採用イベントへの参加や面接官としての協力も含め、採用への貢献は高く評価しています。特に、部長職以上は、組織の成長を牽引するリーダーとして、この採用活動への貢献を強く求めたいという想いですかね。
顧客の声から生まれるイノベーション
直接対話の重要性
— お客様との直接対話を重視されるようになったきっかけは何でしたか。
もともとはユーザーさんと直接話すっていうよりは、サポートチームから上がった要望みたいなのを見て、直接お客様と対応するって感じでもなかったんです。でも実際やってみると、お客様と話す中での気づきがすごく多くて。
本当に世の中の汎用的な課題みたいなお話をされる方もいらっしゃって、解き方も含めて教えてくれる方もいらっしゃっているので。それを実行すれば、多くの人に受け入れられるということを教えてくださるんですよ。
— 具体的にお客様の声から生まれたサービスはありますか。
TOKIUM経費精算の領収書を回収するというアイデアも、TOKIUMインボイスの請求書を代わりに受け取って、オフィスに紙の請求書が届かなくなるというアイデアも、どれもお客様からいただいた要望で、それをヒントにして形にしていった結果、広く受け入れられるサービスができあがったところがあります。お客様の声を積極的に取り入れていますね。
AIエージェント時代の展望

働き方改革とDXの「終焉」
— 日本企業の働き方改革について、どのようにご覧になっていますか。
コロナのタイミングで一気にデジタル化の強制的な適用があったと思っていて、その段階で必要な分だけ進んだんじゃないかと思ってるんですよね。無理に働き方改革だとか、DXだとかのプロジェクトを進行しなくてもいいんじゃないかなとも思っています。
もっといえば、人間が新しいツールを覚えていくっていうのは、もう今年が最後、来年以降は別に新しいツールが入って、従業員が新しいツールのマニュアルを受けて、これを使ってやってくださいとならないとも思っているんです。全部AIエージェントが、そのツールを代わりに使って処理していくっていうふうになるんじゃないかなと。
— つまり、働き方改革という言葉自体が終わりを迎えていると。
そうですね。働き方改革っていう言葉自体は一旦終わりだと思いますね。DXも要らない。その言葉自体が過去のものになっていくんじゃないかなというふうに思ってます。
人間の新たな価値
— AIエージェントが活躍する時代、人はどのような価値を発揮すると思われますか。
僕も結構それ考えてるんですけど、いまだに分からないんですよね。少なくとも自分が判断するよりも、稼働時間っていう観点で思考体力も、はるかにAIエージェントの方が優れている領域がめちゃくちゃあると思ってるんです。
オンライン上とかパソコンの中でできる仕事に関して言うと、自力でAIエージェント自体が解決するようになるはずなので、そうなってくると、オフラインに転がってる情報をどれだけ変換して、パソコンに届けるかっていう仕事が残るんだろうなと思ってます。
— 人の評価軸も変わってくるということでしょうか。
多分その人の性格とか、人当たりとか、成果に関係ない部分でも評価されると思うんです。湖畔が美しいという美的な感性とかあるじゃないですか。それはそこに土地としての価値はそんなにないかもしれないけども、自然資本を楽しむときの価値っていうのは確かにあって。
人間の価値も生産能力だけで測られるものではなく、その人が持つ資本市場と関係ない部分で、重要な人としての美しさとか、考え方の素敵さとか、人間らしさとか、非合理的なんだけども、人間としての面白さとか美しさを感じさせる人の重要性というのは、非常に上がってくると思ってます。
外部人材の活用について
— 外部人材の活用についてはどのようにお考えですか。
社内では獲得できないような専門性がある人とかは外部の人に頼る傾向があります。ただ今後の社会環境も見据えるとわからないこと、断言できないことが本当に多い。
AIの進化の度合いによって必要な人材の質・量も変化していくと思います。なので、不確実性の高いその時々の状況に合わせて求められる人員を確保しつつ、最適なバランスで外部人材を登用していく必要性を感じています。
TOKIUMが目指す未来
— 日本社会全体に対して、どのようなインパクトを出していきたいとお考えですか。
日本社会全体っていうのは、結局一つ一つの会社の集合だと思ってますし、1人1人の消費者が社会だと思います。TOKIUMが「挑戦する時間」を企業に生み出した結果、定型業務などの付加価値の低い単純な仕事っていうのは、TOKIUMの方が業務処理工場として全部引き受けてしまいますので、企業はより付加価値の高い業務に集中できる世界を目指しています。
だから根本的に品質を決定する方針の部分とかに時間を使って挑戦できるようになると思ってるんですよね。結果いいものが生まれると思っています。
— 消費者にとってはどのような変化が起きるでしょうか。
これまでって、安くてたくさん作られた服とか、実はその裏で誰かが大変な思いをして作っていた、みたいなことも多かったと思います。でもこれからは、生産の仕組み自体がどんどん進化して、そういう無理や犠牲がなくても、高品質なものが手頃な価格で手に入る時代になっていくんじゃないかなと感じています。消費者にとっては、誰もが手軽に良いものを享受できる、まさに豊かで持続可能な未来が広がっていくのではないかと期待しています。
その入り口の1丁目1番地がやっぱり企業の未来へつながる時間を生むことだと思っていますので、そこに尽力できるように、特に経理AIエージェント開発に尽力していくということを、僕たちは頑張りたいなと思っています。
おわりに
「今のやり方が間違っていて、良いやり方があるんだったら、すぐそっちに変えたい」
33歳の若き経営者は、柔軟な姿勢を崩さない。組織崩壊の危機を乗り越え、独自の文化を築き上げてきたTOKIUM。AIエージェントが当たり前になる時代においても、「時間を生む」という原点を見失わず、人と組織の新たな価値を創造し続けていく。
企業が挑戦する時間を増やすことで、より良い未来を創る。TOKIUMの挑戦は、人的資本経営の新たな地平を切り拓いている。
経理AIエージェント「TOKIUM」
TOKIUMが提供する経理AIエージェント「TOKIUM」は、AIとプロスタッフ、クラウドシステムが高度に連携され、まるで一人の担当者のように自律的に判断・業務を遂行し、企業の経理業務を自動で完了させるサービスです。本サービスを通じて、あらゆるビジネスパーソンを出張手配や事前申請、突合などの定型的な経理作業から解放します。
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