「AIにキャリア相談」の落とし穴:AIが勧めるのは、あなたの最適解ではなく「平均的な最適解」である

転職者の半数が生成AIを活用する時代。キャリアをAIに相談することは、もう特別な行為ではありません。しかし、AIの答えをそのまま採用してよいのか。AIが勧める「平均的な最適解」の正体と、人が引き受けるべき意思決定の領域を、AIの推薦を退けてCHROに転じた太田昂志氏の事例から考えます。

転職者の半数が生成AIにキャリア相談する時代

「転職すべきか、残るべきか」。この問いを、いまや多くの人が生成AIに投げかけています。

マイナビ転職が2026年7月に発表した調査によると、直近1年以内に転職した正社員700名のうち、生成AIを活用していると答えた人は46.7%でした。年代別では20代が53.7%、30代が61.7%と半数を超え、年収1000万円以上に限ると90.7%に達します。

新卒の就職活動ではさらに浸透が進んでいます。マイナビの2027年卒学生調査では、AI利用の内容は「エントリーシートの推敲」が71.8%で最多、「面接対策」が38.4%と、文章の推敲から意思決定の練習へと用途が広がっています。

背景には、社会全体での急速な普及があります。総務省の「令和8年版 情報通信白書」によれば、生成AIを使った経験のある個人は2025年度調査で58.8%と、前回の26.7%から倍増しました。米国とドイツの75.6%、中国の93.6%にはまだ及びませんが、日本でも「2人に1人以上」が使う段階に入っています。

つまり、キャリアをAIに相談することは、もはや一部の先進的な人の行動ではありません。問題は「使うかどうか」ではなく、AIが返してくる答えを、どう受け取るかにあります。

AIのキャリアアドバイスはなぜ「平均」に寄るのか

キャリアの相談に対して、生成AIは驚くほど整った答えを返します。年収、安定性、成長環境、将来の選択肢の広がり。複数の選択肢を並べ、それぞれの利点と欠点を整理し、総合的に妥当な一つを推薦する。人間のキャリアアドバイザーと比べても遜色のない、あるいはそれ以上の網羅性です。

ただし、その答えには構造的な性質があります。大規模言語モデルは、膨大なテキストデータから「もっともありそうな続き」を学習しています。ある問いに対して返される答えは、統計的に見て多くの人にとって妥当な回答、すなわち多数派の最適解に収束しやすい。これは欠陥ではなく、仕組みそのものに由来する傾向です。

言い換えれば、AIが「あなたに」勧めている答えは、実際には「あなたと似た状況にある多くの人にとって」妥当な答えです。個別の相談に見えて、返ってくるのは平均値なのです。

研究が示す「個人は良くなり、全体は似通ってくる」

この性質は、実証研究でも確認されています。Doshiら(2024)がScience Advances誌に発表した研究では、短編小説の執筆にあたって生成AIからアイデアを得た書き手と、得なかった書き手を比較しました。結果、AIのアイデアを得た書き手の作品は、より創造的で、よく書けていて、面白いと評価されました。特に、もともと創造性の低い書き手ほど効果が大きかったといいます。

ところが同時に、AIの支援を受けた作品同士は、人間だけで書かれた作品同士よりも互いに似通っていました。研究者たちはこれを「個人は良くなるが、集合的な新規性は失われる」と表現し、社会的ジレンマに似た構造だと指摘しています。

キャリアの相談に置き換えれば、こう言えるでしょう。AIに相談すれば、一人ひとりの判断の質は上がるかもしれない。しかし、その判断は互いに似てくる。多くの人が同じAIに同じような問いを投げれば、返ってくる「最適解」も似たものになる。個々には合理的な選択が、全体としては選択の多様性を狭めていく可能性があるというわけです。

キャリアの意思決定は「平均値」で下せるか

ここで立ち止まって考えたいのは、キャリアという意思決定の性質です。

年収、企業規模、安定性、ブランド。これらは比較可能な指標です。数字にでき、並べて優劣をつけられる。AIが得意なのはまさにこの領域で、比較可能な指標を網羅的に整理することにおいて、人間はAIに敵いません。

しかし、キャリアの選択には比較不能な要素が含まれます。何に人生の時間をかけたいのか。どんな仕事を「誇れる」と感じるのか。誰と苦楽をともにしたいのか。これらは統計的に処理できる変数ではなく、その人にしか答えられない問いです。

平均的な最適解は、多くの人にとって正しい。それは否定できません。堅実な選択が幸福につながる人は大勢いますし、「外れ値を選べ」と逆張りを推奨することも違うでしょう。ここで言いたいのは一つだけです。AIの答えが「平均値」であると知った上で選ぶことと、知らずに従うことは、まったく異なる意思決定だということです。

AI時代に最後に残る資本は「個人の想い(アスピレーション)」だと語った、博報堂DYホールディングスの中島静佳氏のインタビューでも強調されているように、その人の内側から湧き上がるエネルギーを生かすことが、AI時代にはいっそう求められるでしょう。

キャリアの意思決定でAIに委ねるもの、委ねないもの

では、AIとどう付き合えばよいのでしょうか。答えは、AIを使わないことではありません。使う領域と、使わない領域を分けることです。

キャリアの意思決定を分解すると、大きく二つの部分に分かれます。一つは、情報を集め、選択肢を整理し、それぞれを分析する部分。もう一つは、整理された選択肢から一つを選び、その結果を引き受ける部分です。

前者は、AIに積極的に委ねてよい領域です。むしろ、人間が一人で考えるより、はるかに網羅的で客観的な整理ができます。自分では気づかなかった選択肢や、見落としていたリスクを提示してくれることもあるでしょう。

後者は、人が担うしかない領域です。理由は単純で、AIは決定の結果に責任を取れないからです。転職して数年後、その選択がどんな結果を生んだとしても、それを引き受けるのは本人以外にいません。責任を取れない存在に、最後の決定を委ねることはできない。この線引きは、キャリアに限らず、AIが関わるあらゆる仕事に共通する原則になっていくはずです。

AIが勧めなかった道を選んだCHRO・太田昂志氏

この線引きを、自身のキャリアの一番大きな決断で実践した人物がいます。

2026年8月、株式会社うるるの執行役員CHROに就任した太田昂志氏です。太田氏はアクセンチュアのプリンシパル・ディレクターとして全社変革の支援に携わっていました。転身を決める際、太田氏はアクセンチュアに残る道、うるるに行く道、そのほかの大企業やメガベンチャーからのオファーを並べ、AIに相談したといいます。

AIは最後まで「アクセンチュアに残る」ことを第一の選択肢として出し続けました。経験できる仕事の内容、グローバルでの成長環境、社会的信用、将来のキャリアの広がり、待遇。どの指標をとっても、残る方が確実に良い。太田氏自身もそれを認めています。

それでも太田氏は、AIが勧めなかった道を選びました。太田氏の言葉を借りれば、AIは多くの人にとっての「平均的な最適解」を勧める。しかし自分は「平均値ではなく外れ値であっても、大きな可能性を感じられる道」を選びたかった。客観的に比較した上で、最後は自分の主観を信じた、と語っています。

重要なのは、太田氏がAIを使わなかったわけではない、という点です。AIの分析を最大限に活用し、その上で最後の決定と結果への責任は自分で引き受けた。「AIの活用を前提としつつ、AIに依存しない」。太田氏が人的資本経営の思想として掲げるこの言葉は、抽象論ではなく、まず自身のキャリアで実践されていたものでした。

どんなにAIが情報を集めても、「迷わずに判断する」ということはできないのかもしれません。道を自分で選び取る、だからこそ、力強く選択した道を歩んでいける。そんな姿を、取材時の太田氏の発言からは感じ取ることができます。

太田氏がキャリア選択において、どのような軸を選んだのか。「よき祖先」という時間軸、支援者と当事者の決定的な違い、そしてキャリアに迷う人へのメッセージは、インタビュー前編で語られています。

参考文献

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執筆者
オカダタクヤ | HUMAN CAPITAL+編集長

メディア・編集、コンサルティング・経営企画、起業家としての経験を横断的な背景に、組織開発・人材マネジメント、リーダーシップ論、人的資本経営への関心からHUMAN CAPITAL+を立ち上げ。 複数の組織で培った知見をベースに、「人と組織」をテーマとした一次情報の発信・編集に努める。経営者・実務家・研究者など多様なステークホルダーとの対話を通じ、現場に根ざした視点でコンテンツを企画している。 HUMAN CAPITAL+では、経営と人事の交差点にある本質的な問いと実践知を届けることをミッションとする。「一人ひとりが組織の中でいかに力を発揮できるか」を問い続けることがその核にある。