「フリーランス活用が企業変革を加速させる」グローバルトレンドから見る人材戦略ーー『人的資本経営 まるわかり』著 岩本隆 氏 寄稿

2023年の人的資本の開示義務を皮切りに広がりを見せている、人材をコストではなく、資本だと捉える「人的資本」という考え方。世界的に企業経営の新たな指標として重要視されていますが、どう考え、どんな風に企業経営に活かしていくべきか、悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。 HUMAN CAPITAL+では、「人的資本」への理解を深めるとともに、働き方の多様化や企業と個人の関係が変化した社会を見据えたこれからの<人的資本>を探究し、企業の成長のヒントになる情報を発信してまいります。 今回、ご寄稿の第一弾として、著書『人的資本経営  まるわかり』を出版された人的資本経営の第一人者である岩本 隆先生に、社会全体で共有できる広義の意味での「人的資本」である、フリーランスと企業をテーマにご寄稿いただきました。

岩本 隆氏プロフィール

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。  (一社)ICT CONNECT 21理事、(一社)日本CHRO協会理事、(一社)日本パブリックアフェアーズ協会理事、(一社)SDGs Innovation HUB理事、(一社)デジタル田園都市国家構想応援団理事、(一財)オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。

日本におけるフリーランスとは – フリーランス人口増加を見据え、いよいよ新法施行 –

 働き方の多様化の進展によって世界でも日本でもフリーランス人口が急増している。その動向を受けて、フリーランスの方が安心して働ける環境を整備するため、2024年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」が施行される。また、本法律を全国に周知徹底するため、2024年6月17日には、本法律(通称:「フリーランス保護新法」)に特化したウェブサイトが公開された。

フリーランス保護新法では、フリーランスは「業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの」と定義されており、事業者は株式会社等の法人である場合もあれば、個人事業者の場合もあれば、個人事業の開業届出をしていない個人の場合もある。法人と個人事業者は、中小企業基本法における小規模企業者でもあり、『2018年版中小企業白書』によると、2017年度の小規模企業者数は図表1に示すようになる。

小規模企業者は全体で325万者あり、その内の39.4%の128万者が法人、60.6%の197万者が個人事業者である。また、325万者の内、55.7%の181万者が常用雇用者ありの法人・個人事業者、44.3%の144万者が常用雇用者なしの法人・個人事業者である。従って、フリーランス保護新法の定義では、小規模企業者325万者の内、44.3%の144万者がフリーランスということになる。

 また、総務省統計局が、2022年10月1日を調査期日として実施した就業構造基本調査結果によると、本業がフリーランスの数は209万人となっている。小規模企業者に分類されるフリーランス、小規模企業者に分類されない本業としてのフリーランスに加え、副業としてのフリーランスを加えたものがフリーランス人口となる。フリーランスを事業者とみなした場合、日本の事業者の分類は図表2に示すようになる。

フリーランス活用による、労働人口問題解決への期待– 米国経営者の90%はフリーランス活用を更に強化すると回答 –

 筆者は、2020年9月9日に、一般社団法人日本パブリックアフェーズ協会から『ポスト・コロナ社会におけるニューノーマルな働き方~「WorkTech×フリーランス」がもたらす潜在的労働力活用と経済成長~』というタイトルの政策提言レポートを発表し、潜在的フリーランス人口は約2,149万人であり、フリーランスがうまく活用されれば、国全体で約69兆円のGNI(Gross National Income:国民総生産)の増加が見込まれることを示した。また、労働人口減少が今後の日本の大きな社会課題になっている中で、今後益々増加すると見込まれるフリーランスを活用し、日本の社会全体で人材が最適配置されれば、労働人口問題解決につながることも期待される。

 米国労働統計局の発表によると、米国の2023年のフリーランス人口は7,330万人で2028年までには9,000万人を超え、労働者の半分以上がフリーランスになると予測されている。そして、事業の81%はフリーランス活用をして自社のスキルギャップを埋めている。そのため、フリーランス活用は企業の経営戦略としても重要になっており、経営者の90%はフリーランス活用を更に強化すると答えている。米国以外の国・地域でもフリーランス活用が急速に進展しており、日本でもフリーランス活用が経営戦略の重要な要素になってくることが予想される。

出典先:『Economic News Release, U.S. Department of Labor

企業変革のためのフリーランス活用

 現在、日本でもほぼ全ての企業が変革を求められている。DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)、SX(Sustainability Transformation:サステナビリティトランスフォーメーション)、GX(Green Transformation:グリーントランスフォーメーション)などさまざまな側面で企業は変革に迫られている。変革に似た言葉に「改革」があるが、変革は改革とは意味が異なる。改革は英語でReform(リフォーム)と表現するように、枠組みはそのままにして、同じ枠組みの中で中身を入れ替える。一方、変革はX(クロスする意味)と表現されるように、こちらの岸から向こう岸に渡るイメージで、枠組みすら変えてしまう。従って、変革を進めるための人材マネジメントでは、向こう岸に渡るために自社に現時点で保有していない新たなスキルやケイパビリティをもつ人材を自社に取り込んでいく必要がある。

 新たなスキルやケイパビリティを取り込むためには、「自社の人材を育成する」、「新たなスキルやケイパビリティをもつ人材を採用する」などの方法があるが、変革のスピードを上げるためには、フリーランス活用が効果的である。

内部人材のマネジメントにタレントマネジメントシステムを導入する企業が日本でも増えてきたが、外部人材、特にプロフェッショナル人材であるフリーランスについても、今後内部人材と同じレベルでマネジメントをする必要がある。フリーランスのプラットフォームは「フリーランスマネジメントシステム」と呼ばれており、現在、世界的にフリーランスマネジメントシステムのクラウドアプリケーション市場が急成長している。内部人材に対してタレントマネジメントシステムを活用するように、フリーランスに対してフリーランスマネジメントシステムを活用し、企業の変革を推進することが今後益々求められるであろう。

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執筆者
HUMAN CAPITAL + 編集部

「HUMAN CAPITAL +」の編集部です。 社会変化を見据えた経営・人材戦略へのヒントから、明日から実践できる人事向けノウハウまで、<これからの人的資本>の活用により、企業を成長に導く情報をお届けします。