近年で働き方の多様化やコロナ禍によるリモートワークの普及により、職種問わずフリーランスとして独立する方が増えてきました。
しかし「フリーランス=正規雇用ではない」という背景から、安心かつ安定的に働くことができないという懸念が大きくありました。
そんな中、2024年11月1日に「フリーランス新法」が施行され、これまで不安定な環境の中で働いていたフリーランスの方にとって、大きな環境の変化が起こりました。
本記事では、フリーランス新法について読み解いていきます。
フリーランス新法とは?――法制定の背景といま何が起きているか
2025年6月17日、公正取引委員会は大手出版社の小学館および光文社に対し、フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)第3条(契約条件の明示義務)および第4条(報酬支払義務)の違反を認定し、両社に改善勧告を行いました。
両社は、フリーランスとの契約時に「業務の内容」「報酬額」「支払期日」などの条件を書面・電磁的方法で明示せず、さらに報酬の支払期日を守らなかった事実が問題視されています。
同様に2025年3月28日には、ゲームソフト業・アニメーション制作業などフリーランス取引が多い業界の企業45社に対し、契約書・発注書への必要事項記載など取引条件の是正を求める行政指導が行われました。
これらの事例では、業務完了後に報酬が未払いとなったケースや、契約内容が不明確であったケースが確認されています。
違反した発注企業には最高50万円の罰金(法人には代表者にも科される両罰規定)を含む罰則が適用されるため、企業は社会的信頼やブランドを守る観点から早急に対応策を講じる必要があります。
出典:(令和7年6月17日)株式会社小学館に対する勧告について
出典:小学館と光文社にフリーランス法違反で初勧告 報酬支払い巡り公取委
出典:(令和7年3月28日)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導について
二本柱で構成される新法の全体像――取引の適正化と就業環境整備
フリーランス新法は「取引の適正化」と「就業環境の整備」という二つの柱から構成されており、段階的に施行されています。
まず、2024年11月1日に「取引の適正化」に関する部分(法律第2章)が施行されました。
これにより、発注企業には業務委託契約時に必ず契約条件を明示する義務、支払期日を設定して期日内に支払う義務が課されました。
また、フリーランスの成果物の受領後に60日以内でできるだけ早く支払期日を定め、その期日内に報酬を支払う必要があります。同時に、一方的な報酬の減額や返品強要などの禁止規定も設けられています。
さらに2025年5月からは「就業環境の整備」に関する部分(法律第3章)が施行され、6ヶ月以上の契約における育児・介護休業への配慮義務、ハラスメント相談体制の設置義務、契約解除時の30日前予告義務と求めがあれば解除理由の説明義務などが追加されました。
以上によりフリーランス新法は完全施行され、発注企業はすべての規定に沿った対応が求められています。
出典:e-Gov法令本文
出典:https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/download/freelance/law_03.pdf
人事部門が直面する3つの課題――契約・支払・ハラスメント対応
フリーランス新法施行に伴い、企業は内部体制の見直しを迫られています。
まず、契約管理の強化です。従来は契約条件の明示や支払管理を主に法務・経理が担っていましたが、フリーランス活用の拡大により、人事部門も契約書・発注フローへの関与が不可欠になります。
契約書や見積書で必要事項が漏れていると、今回の事例のように行政指導の対象となり得ます。また、報酬支払の遅延はフリーランスとの信頼関係を損ない、企業イメージにもマイナスです。
したがって、人事・経理が連携し支払期日を徹底管理する仕組み(アラート設定など)の導入が求められます。
一方で、労働環境整備も重要です。新法ではフリーランスもハラスメント対策や相談対応の対象となるため、従来社員向けに設けていた制度にフリーランスを含める必要があります。
例えば、ある企業が従業員向けにはハラスメント防止規定を整備していたにもかかわらずフリーランスを対象外として是正指導を受けた事例も報告されています。
人事部門は「フリーランスも組織の仲間」という意識を社内に浸透させ、ハラスメント相談窓口や研修などにもフリーランス対応を加えることが重要です。フリーランスとの業務委託においても、ハラスメント対策として相談体制の整備や不利益取扱いの禁止義務が課せられています。
さらに、契約更新・解除手続きにも注意が必要です。
契約期間が6ヶ月以上の場合、中途解除・不更新時には原則30日前の予告(第16条)と、求めがあれば解除理由の説明(第17条)が義務付けられています。
急な契約打ち切りを防ぐため、人事は社内規程に解除条件を明文化し、現場が独断で契約を終了しないよう運用ルールを徹底すべきです。
加えて、フリーランス活用に伴う「偽装請負」のリスクにも留意が必要です。人事はフリーランスと従業員の境界を明確にし、指揮命令や労働管理が実態に即しているか見直すことで、労働法上の問題を回避する体制整備を進める必要があります。
出典:(令和7年3月28日)特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律に基づく指導について
出典:「ハラスメント基本情報」業務委託におけるハラスメント防止のために講ずべき措置(フリーランス・事業者間取引適正化等法)
企業が取るべき実務対応――信頼を築くフリーランスマネジメントへ
フリーランス新法施行による課題を踏まえて、企業はあらゆる対応を行う必要があります。
まず法対応だけでなく、フリーランスとの信頼関係構築を経営戦略の一環と位置づけることが重要です。適時適切な報酬支払いと誠実な契約対応は企業の社会的責任(CSR)に直結し、発注先との信頼強化や企業ブランド向上につながります。
また、フリーランスを単なる「外注先」ではなく「協働パートナー」として捉える意識改革も不可欠です。人事部門は従業員向け研修にフリーランスとの協働についての内容を組み込み、組織内での認識統一を図るべきでしょう。
併せて、契約管理体制の整備も急務です。具体策としては、例えば以下が考えられます。
- 業務委託契約書のフォーマットを見直し、法定の明示事項(業務内容、報酬額、支払期日など)が漏れなく盛り込まれているかチェックリストで確認する。
- 会計・経理システムにフリーランス請求専用の支払期日管理機能やアラート機能を追加し、支払漏れを防止する。
- 自社でフリーランスが関与する全業務を洗い出し、とくに契約条件が複雑な高リスク業務については内部監査を優先的に実施して問題を早期発見する。
人事部門が主体的にこれらの仕組みを整備・運用することで、現場の負担を軽減し、フリーランス活用を円滑かつ戦略的に推進できる体制を構築できます。
まとめ:法令遵守を超えた価値――人事がつくる“選ばれる企業”の条件
IT分野を中心としたフリーランス市場は急速に拡大しています。エン・ジャパン社の調査によれば、2025年のITフリーランス市場規模は約1兆1,849億円(2015年比で約1.6倍)に達すると予測されており、今後もDX(デジタルトランスフォーメーション)や働き方改革の進展に伴いフリーランス人口の増加が見込まれています。
こうした市場動向の中で、フリーランスへの対応を単なる「守りの施策」にとどめず積極的に推進することは、企業にとって重要な競争優位となります。
迅速な報酬支払いや配慮ある契約対応は、「フリーランスにも選ばれる企業」としての評価を高め、長期的には優秀な人材の確保・定着につながります。
実際、CSR活動は取引先との関係強化や企業イメージ向上、優秀な人材確保にも有効とされており、フリーランス新法の遵守を義務ではなく信頼構築の機会と捉えることで、新たな働き方に即した企業文化を醸成できます。
法令を超えた価値創造の視点で取り組むことで、市場の変化に先んじた企業経営が可能となるでしょう。
出典:エン・ジャパン、ITフリーランス市場調査レポートを公開 ITフリーランスの市場規模は10年で1.6倍に成長見込み。現在活用中の企業の6割が「今後、活用を増やしたい」と回答。
即戦力人材の採用にお困りではありませんか?ハイスキルなフリーランス人材をスムーズに採用できる【テックビズ】
テックビズでは「ITエンジニア」「人事HR」「経理ファイナンス」領域にて優秀なフリーランス人材をご紹介しています。スキルのみならず人柄も踏まえ、企業様にマッチした人材を、最短で即日ご紹介できます。即戦力人材の採用にお困りの企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。









