人的資本経営の死角? フリーランスの58%が抱える「福利厚生の壁」を越え、企業価値を高めるエンゲージメント戦略

フリーランスの58%が福利厚生に不安を抱える中、貴社は「社外人的資本」の力を活かせていますか?

この見過ごせない課題を人的資本経営の成長機会に変え、彼らとのエンゲージメントで企業価値向上に繋げる戦略を具体的に解説。

CHROが果たすべき役割も提示します。

人的資本経営への注目がかつてないほど高まり、多くの企業が従業員のエンゲージメント向上やスキル開発に積極的に投資しています。しかしその視線は自社の「内部」にのみ向けられてはいないでしょうか。

現代の事業環境において、専門スキルを持つフリーランスや業務委託パートナーといった「社外人的資本」の活用は、企業の競争力維持、イノベーション創出に不可欠な要素となりつつあります。

株式会社テックビズが2025年4月30日から5月2日に実施した「フリーランスの福利厚生に関する調査」では、フリーランスの実に58.0%が福利厚生の不足に対して不安を感じているという実態が明らかになりました。

この結果は、フリーランス人材が抱える構造的な課題に注目することを促します。

本記事では、この見過ごされがちな「社外人的資本」のエンゲージメントをいかに戦略的に高め、持続的な企業成長と企業価値向上に繋げていくか、その重要性と具体的な方策を考察していきます。

なぜ今、「社外人的資本」への戦略的エンゲージメントが重要なのか?

フリーランスと書かれた文字

企業の成長戦略において、外部の専門人材の活用はもはや一時的なリソース確保の手段ではありません。彼らは新規事業の推進、DX化の加速、専門領域における課題解決など、多岐にわたる場面で企業価値創造に直接的に貢献する存在です。

人的資本経営の文脈においても、この「社外人的資本」を単なるアウトソース先としてではなく、共に価値を創造するパートナーとして捉え、その能力を最大限に引き出すための戦略的な関与が求められています。

しかし、前述のテックビズ社の調査結果は、この「社外人的資本」が置かれている厳しい現実を浮き彫りにしています。

・福利厚生への強い不安: 回答者の半数以上(58.0%)が、会社員のような福利厚生がないことに不安を感じています。

・健康管理の課題: 特に経験年数4~6年のフリーランスにおいて、健康診断の未受診率が高い傾向が見られました。

・経済的備えの不足: 老後や、病気・ケガで働けなくなった場合の経済的な準備が十分ではないと感じるフリーランスが多数派です。

企業が「必要な時に、必要なスキルを、最適なコストで」という論理でフリーランスを活用する一方で、彼らは安心してその専門性を発揮し、継続的に貢献するための基盤を求めています。このギャップを放置することは、中長期的に見て企業にとっても大きな損失となりかねません。

「社外人的資本」のエンゲージメント低下が企業にもたらす隠れたリスク

落ち込んでいる人

社外人的資本が抱える不安や不満を軽視し、エンゲージメントが低い状態のまま協働を続けることは、企業にとって以下のような隠れたリスクをもたらします。

機会損失:
優秀なフリーランスは、より良い条件や働きがいのある環境を求めて流動します。エンゲージメントの低い企業からは有能な人材が離れ、獲得競争で後れを取る可能性があります。

品質・生産性の低下:
経済的な不安や健康への懸念を抱えたままでは、最高のパフォーマンスを発揮することは困難です。集中力の低下やモチベーションの減退は、業務の品質や生産性に直結します。

レピュテーションリスク:
フリーランスコミュニティやSNSを通じて、「フリーランスを大切にしない企業」「使い捨てにする企業」といったネガティブな評判が広がるリスクがあります。これは、社外人材だけでなく、社内人材の採用やエンゲージメントにも悪影響を及ぼしかねません。

イノベーションの停滞:
新しい視点や多様な知見は、イノベーションの源泉です。しかし、社外人的資本が心理的安全性を感じられず、主体的な提案や挑戦を躊躇するようでは、その貴重な機会を失うことになります。

これらのリスクは、短期的には顕在化しにくいかもしれませんが、確実に企業の競争力を蝕んでいくでしょう。

戦略的エンゲージメント向上のための具体的アプローチ:企業は何をすべきか?

「社外人的資本」との戦略的なエンゲージメントを構築し、彼らの能力を最大限に引き出すためには、経営層、特にCHRO(最高人事責任者)が主導的な役割を果たすことが重要です。

単なるコスト削減の対象ではなく、持続的な価値創造パートナーとして彼らを位置づけ、具体的な施策に落とし込む必要があるわけです。

CHRO/経営者が主導すべきこと:

方針の明確化と意識浸透: 「社外人的資本」をどのように位置づけ、どのような関係性を構築していくのか、明確な方針を策定し、社内外に発信する。

投資としての認識: 彼らとの良好な関係構築や就業環境整備にかかる費用を、コストではなく、将来の企業価値向上に繋がる「投資」として捉える。

具体的な施策例:

コミュニケーションと関係性の質向上:

定期的なフィードバックと情報共有: 業務の進捗だけでなく、企業のビジョンや戦略、事業の方向性などを共有し、一体感を醸成する。双方向のコミュニケーションを重視する。

企業文化への参加機会: 社内イベントや勉強会への招待、社内SNSへの参加など、可能な範囲で帰属意識を高める機会を提供する。

安心感と成長機会の提供 (今回の調査結果への対応として特に重要):

<福利厚生面でのサポート検討:>
健康支援:
団体割引で利用できる健康診断プログラムの情報提供や一部費用の補助、オンライン健康相談サービスの利用機会提供などを検討する。

経済的安定支援:
フリーランス向けの団体保険(所得補償保険、賠償責任保険など)への加入斡旋や情報提供、確定申告サポートなどの情報提供。

相談窓口の設置:
契約内容や業務上の困りごとなどを気軽に相談できる窓口を設ける。

<スキルアップ支援>
企業が提供する研修プログラムへの参加機会の提供(有償/無償問わず)、社内ナレッジベースへのアクセス権限の一部付与など、彼らの市場価値向上に繋がる支援を検討する。

協働しやすい環境整備:

スムーズなオンボーディング: プロジェクト開始時に、必要な情報、ツール、コミュニケーションチャネルなどを明確に伝え、早期に戦力化できるようサポートする。

社内チームとの連携強化: 社内メンバーとの円滑なコミュニケーションを促進するためのルールやツールを整備し、チームの一員として尊重する文化を醸成する。

これらの施策は、全てを一度に行う必要はありません。自社の状況や活用するフリーランスの特性に合わせて、優先順位をつけて取り組むことが重要です。

「社外人的資本」とのエンゲージメント強化がもたらす企業価値向上

握手

「社外人的資本」との戦略的なエンゲージメントを強化することは、企業に多大なメリットをもたらします。

イノベーションの加速:
多様なバックグラウンドや専門性を持つフリーランスとの協働は、凝り固まった社内の発想を刺激し、新たなアイデアやビジネスモデルの創出を加速させます。

生産性と品質の向上:
安心して能力を発揮できる環境で働くモチベーションの高いフリーランスは、質の高い成果物と高い生産性で企業に貢献します。

レジリエンスの強化:
必要なスキルを持つ人材を柔軟に確保できる体制は、事業環境の急激な変化に対する企業の対応力(レジリエンス)を高めます。

企業ブランドの向上:
「人を大切にする企業」「多様な働き手を尊重する企業」というポジティブなブランドイメージは、優秀な社外人材だけでなく、社内人材の獲得や定着にも繋がります。

人的資本開示におけるアピールポイント:
社外人的資本への戦略的な取り組みは、投資家に対して、持続的な価値創造能力やリスク管理能力の高さを示す有力な情報となり得ます。

まとめと今後の展望

もはや「社外人的資本」は、単なる外部の労働力やコスト削減の手段ではありません。彼らは、企業の成長戦略を実現し、イノベーションを推進するための不可欠な戦略的パートナーです。

今回の調査で明らかになったフリーランスが抱える福利厚生面の不安は、個人の問題であると同時に、彼らを活用する企業にとっても無視できない課題です。この課題に真摯に向き合い、彼らが安心してその専門性を最大限に発揮できる環境を整備することは、短期的なコスト増を補って余りある、中長期的な企業価値向上に繋がる「投資」と言えるでしょう。

CHROをはじめとする経営層は、社内人材と社外人材の双方を含む「人的資本全体」を最適化するという視点を持ち、経営戦略と連動した「社外人的資本」エンゲージメント戦略を積極的に推進していくことが求められます。

あなたの会社は、「社外人的資本」の力を最大限に引き出し、共に未来を創造する準備ができているでしょうか?

今こそ、その第一歩を踏み出すときが来ています。

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執筆者
HUMAN CAPITAL + 編集部

「HUMAN CAPITAL +」の編集部です。 社会変化を見据えた経営・人材戦略へのヒントから、明日から実践できる人事向けノウハウまで、<これからの人的資本>の活用により、企業を成長に導く情報をお届けします。

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