【イベントレポート】4社の成功事例から探る、「個の力」を引き出す組織開発とは 〜性別問わず誰もが活躍できる社会を目指して〜

近年、日本ではジェンダーギャップ指数の低さや女性管理職比率の低迷など、「女性の働き方」に関する課題が顕在化しています。人手不足が続く中、既存社員の能力を最大限に引き出し、多様性を活かした組織づくりが急務です。しかし、「従業員のエンゲージメントをどう向上させるか」「女性のキャリアアップをどう支援するか」といった具体的な施策に悩む企業も少なくありません。

こうした背景を受け、国際女性デー(3月8日)前日の3月7日(金)、『THINK FOR HER 〜「個の力」を引き出す組織開発〜』が開催されました。本イベントでは、多様性を尊重しつつ「個」の力を最大化する人事戦略に焦点を当て、先進的な取り組みを進める企業の事例が共有されました。ここでは、その内容をレポートします。

なぜ「個の力」を引き出すことが必要なのか

昨年「ジェンダーギャップ指数」について、日本は世界146か国中の118位と発表(※1)され、男女格差が依然として改善されていないことが話題となりました。厚労省の調査により、「働き方」という面において、女性の役職者比率が12.7%と国際的に見てもかなり低い水準になっていることがわかりました(※2)。

さらに日本の「働き方」の課題として、人材不足はいつになっても解決されない問題として取り沙汰されており、正社員が不足している企業は51.7%と深刻な数値(※3)になっています。

 ※1:世界経済フォーラム「Global Gender Gap Report 2024」
 ※2:厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査 企業調査結果概要
 ※3:株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)

このような働き方にまつわる課題がある中で、人を増やすだけではなく組織のパフォーマンスを最大化すること、つまり「個の力」を最大限引き出す組織開発が重要視されています。

普段は男女を分けて人事施策を考えない企業も多いと思いますが、本イベントでは、女性活躍をテーマに、4社に組織開発の成功事例をご紹介いただきます。

ウォンテッドリー株式会社:働きがいを最大化する組織への「共感」施策

女性に対し企業がどういったことができるのかを考える際に、「負担を減らす(マイナスを0にする)ことに注目が集まりがちであるが、働くためのポジティブなエネルギーを増やす(プラスを最大化する)サポートも大切」とした上で、ウォンテッドリーの橋屋 優理氏から、従業員の「働きたい・頑張りたい」という気持ちやエネルギーを生み出す取り組みについて紹介いただきました。

橋屋氏は「エネルギーの源となるのは、『組織に対する「共感」』。会社・チームのミッションやビジョン等、向かうべき方向が明確に示されていることや、従業員が心から有意義である、仕事を通して会社のミッション・ビジョンに関わることが自分の使命だ、と感じられる環境を醸成することがポイントだ」と述べました。


具体的な施策としては、以下の4つのポイントを意識しているそうです。

①採用:カジュアル面談等を活用し、条件より先に双方が共感している状態をつくる
②配置:「好きなこと・得意なこと✕活躍できる場所=究極の適材適所」を実現する
③コミュニケーション:新メンバーにも同じコミュニケーション特性を帯びさせる
④福利厚生:日常性・公平性を意識した施策

株式会社テックビズ:頑張りたい人が報われる組織創り

次にテックビズの池谷 夢海氏が登壇し、同社では業務委託でもリモートでも、女性も活躍できる「頑張りたい人が頑張れる、頑張っている人が報われる組織創り」を目指していると語りました。

具体的な施策としては、

①採用:信用に足る、優秀な人材のみ採る
②配置:自己実現に向けたチャレンジを歓迎する
③制度:Pay For Performance
④育成:カッコイイ人物になるための成長を支援
⑤代謝:契約ではなく信用によって繋がる
⑥福利厚生

等、さまざまなジャンルで取り組んでいると紹介しました。

そのなかでも同社は、2024年の7月に、休みを無制限に取得できる「有給取り放題制度」という日本でも珍しい福利厚生を導入を開始し、リフレッシュや自己研鑽、お子さんの急病対応時等、様々な目的で活用されているとのことです。今年は契約形態・性別等問わず取得できる「産休・育児補助」「家事・代行活用補助」などの制度導入も検討中と、社員の方が働きやすいよう積極的な制度設計を行なっている様子でした。

池谷氏は「『キャリアも、大切な人も、自分らしさも、どれも諦めない未来』をテックビズがリードして実現していきたい」と語り、締めました。

Ms.Engineer株式会社:生産的に継続的に活躍できる環境づくり

Ms.Enginee(ミズエンジニア)の井崎 仰氏は、前提にある課題感として「L字カーブ」と呼ばれる、女性の正規雇用率が25~29歳をピークに低下し続けている現状を挙げました。

同社は、こういった構造的な問題によって生まれている男女の賃金格差を是正することを目的に、「時間貧困の解消・新しい働き方の実践・テクノロジーの理解」を実現できるITエンジニアというキャリアの創出に向けたサービスを提供しています。

自社内での具体的な施策としては、働き手の課題である「時間が足りない」点を解消するために、

以下の3つを取り入れているとのことでした。

①リモートワーク:創業期から積極活用し、全体の50%以上(CTOとメンバー数人)はフルリモート
②週休3日制(土日+水曜定休):正社員/コアメンバーの制度利用率100%
③AI Savvy(AIに関連したツールを徹底的に使い切る):GPT利用料補助、正社員/コアメンバーのAI活用率100%

特に、③AI Savvy については「AI or Die」という全社のスローガンを掲げており、効率性を突き詰めているからこそ、一見難しそうに見える ②週休3日制 も実現できていると語りました。

井崎氏は、「弊社は特に女性が抱える働く時間や場所の制約を解消すべくサービスを提供しているので、まず我々がそれを体現すべく、自社の働き方においても同じ軸で組織や制度を設計している。今後も生産的に、そして継続的に女性が活躍できる環境をつくっていきたい」とまとめました。

株式会社Smart相談室:“働きやすさ”を生み出す仕組みづくり

最後は、Smart相談室の枝野 友香氏が登壇しました。

同社は、社員の過半数を30代が占めており、子どもがいる社員の割合も44.9%と高いため、子育て世代にも優しい働き方が必要となっていると語りました。

そのため、さまざまな施策を行っているが、よく利用されている制度は、①リモートワーク、②フルフレックス、③Smart相談室の利用 だと紹介しました。

社員の声としても、上記制度の利用によって「往復2時間の通勤が無くなり、心に余裕が感じられる」というものや、「妊娠中の妻の検診にも付き添いができ、育休も安心してとれるのでより良好な関係が築けている」という男性側の意見もありました。

また、枝野氏は「人事制度を苦労して作っても使われない、もしくは利用されることにより業績へ響くのではないかという懸念が生じる制度があるといったことも人事あるあるではないか」と語りかけました。

その解決策として、同社では

①制度を利用しやすい環境を日頃から作る
②会社の文化や価値観と連動させ推奨する
③評価制度の運用で働きやすさと成果のバランスを維持する
④社内で相談しにくいことを気軽に相談できる場所をつくる

ことによって働きやすい環境をつくれている、とまとめ、セッションを終えました。

交流会の様子

セッション終了後には参加者同士の交流会が実施され、登壇企業への質問や他社人事との意見交換が活発に行われました。ある参加者は「オフラインならではの熱量を感じ、すぐに実践できる自社の課題解決のヒントが得られた」と語り、イベントの実践的な価値を実感する場面も見られました。

まとめ

各社の事例から、「個の力」を引き出すためには以下の要素が必要であることが明らかになりました。

  • 柔軟な働き方の導入:リモートワークやフレックスで多様なニーズに応える。
  • 多様性を尊重する評価制度:成果主義と公平性のバランスを追求。
  • 従業員の組織に対する「共感」と「成長」への投資:ミッションの共有とキャリア支援でエンゲージメントを向上。

本イベントは、女性活躍に焦点を当てつつも、性別や雇用形態、勤務形態を問わず「個の力」を引き出す重要性を再確認する機会となりました。企業には、画一的な枠組みを超え、一人ひとりの可能性を最大化する組織づくりが求められています。女性活躍をはじめ、多様な働き方を通して、誰もが活躍できる職場作りに努めましょう。

今後も、テックビズでは人事担当者向けのイベントを定期的に開催予定です。

ご興味ある方は、ぜひイベントにお越しください。

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執筆者
HUMAN CAPITAL + 編集部

「HUMAN CAPITAL +」の編集部です。 社会変化を見据えた経営・人材戦略へのヒントから、明日から実践できる人事向けノウハウまで、<これからの人的資本>の活用により、企業を成長に導く情報をお届けします。