AIで仕事が楽になった、早く帰れるようになった。その裏で「生産性」は消えていないか。
株式会社レクター代表取締役・日本CTO協会理事の広木大地氏は、多くの企業が陥る「絶対速度の罠」に警鐘を鳴らす。2018年、『エンジニアリング組織論への招待』(技術評論社)でブクログ・ビジネス書大賞、翔泳社技術書大賞をW受賞。エンジニア組織論の第一人者として知られる広木氏が、2025年11月に上梓した新著『AIエージェント 人類と協働する機械』(リックテレコム)では、マクロとミクロを横断するAI時代の将来ビジョンを提示し、話題を呼んでいる。
スマートフォン登場時と同じ変革期にある今、求められるのは逆張りではなく順張り。日本のメンバーシップ雇用という強みを活かし、「配られたカード」で長期戦を戦う。
AI時代の組織変革と人材戦略の本質を聞いた。
広木大地氏プロフィール

2008年に株式会社ミクシィに入社。同社メディア開発部長、開発部部長、サービス本部長執行役員を務めた後、2015年退社。株式会社レクターを創業。技術経営アドバイザリー。著書『エンジニアリング組織論への招待』がブクログ・ビジネス書大賞、翔泳社技術書大賞受賞。一般社団法人日本CTO協会理事。朝日新聞社社外CTO。
複数の立場から見る、変革の最前線
――本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。まず、広木さんの現在の活動について教えていただけますか。
よろしくお願いします。私は現在、株式会社レクターの代表として、また日本CTO協会の理事として活動しています。それ以外にも複数の企業に関わらせていただいています。
私のキャリアは、株式会社ミクシィ(現:株式会社MIXI)のエンジニアとしてスタートしました。新卒採用を始めたばかりの第1期生として入社し、その後テクノロジーのスペシャリスト(IC)としてキャリアを歩んできました。よく「マネージャーかスペシャリストか」というキャリアの選択が語られますけど、私はスペシャリスト側の道を選んだんです。
技術的な問題の根本解決を志しましたが、過程で気づいたのは、ソフトウェアに現れている問題の多くが、実は組織的な問題に起因するということでした。「なぜこんな構造になっているのか」「もっとこうすればいいのに」と思うことが多々あって、それを改善しようとすると、組織上の問題もコード上の問題も同じように解決していく必要があったんです。そこから、マネージメントを行うようになり、最終的にビジネス部門も含めた経営に携わるようになりました。
その後、独立し経営と技術の間にある問題を解決するべく、複数の企業に関わるようになりました。現在は大企業からスタートアップまで、さまざまな企業に関与しています。1つの企業だけでは得られない影響力や知見を通じて、自分が目の届く範囲で世の中をよりよい方向に動かしていきたいと考えています。
AIエージェント時代への認識 歴史は繰り返される
――今回のテーマであるAIエージェント時代について、広木さんはどのような認識をお持ちでしょうか。
実は、今起きていることは私にとって既視感があります。私が mixiで経営に関わり始めたのは、スマートフォンが出始めてから数年後のタイミングでした。大きな前提変化に出遅れた状況から、どう巻き返していくか。それが私が経営を考え始めた最初のきっかけだったんです。
今まさにそれに近い状況だと感じています。2023年にChatGPTが注目されて、「すごいものだね」と皆が言い、さまざまなイノベーションが語られるようになりました。ただ、「それが事業にとって大きな影響があるか」と問われると、当初は「わからない」という反応が多かった。
でも、2025年あたりから、明確な変化が見え始めています。メディアへの流入がAIによる回答で変化したり、コンサルティングサービスに対して「自分たちで効率よく作れるから不要」という声が出始めたり。AI化の影響が実際のビジネスに現れ始めているんです。
―スマートフォン登場時との類似性ですね。
2012年頃、多くの人がスマートフォンによる変化を想像しきれていませんでした。たとえば、QRコードでタクシーに乗って支払いするなんて、想像していなかった。でも気がついたら当たり前になって、いろいろなものにQRでの支払いや接続機能が搭載されるようになった。
2010年、2011年頃は「フィーチャーフォンが全部駆逐されることはないでしょう」「2台持ちしている人だけでしょう」という意見もあったんですよね。今その話を聞いたら「何を言っているんだ」と思いますけど、当時は半々ぐらいの認識だったんです。
――今のAIも同じ状況にあると。
まさにそうです。これに対して、私たちは「指数関数的な変化」に対する認知バイアスを持っている。つまり、指数関数的な変化を線形的な変化だと錯覚してしまうんです。
AIの変化は指数関数的なのに、私たちは今年、来年という一直線上の変化で想像してしまう。だから「最初はあまり変化しないね」と感じる。今後数年は「AIは使ったけれど、企業の生産性はあまり上がらなかった」と語られる時期があるかもしれません。
でも、その後に気づいたら別のプレイヤーに全てディスラプトされていて、AI前提の企業経営が当たり前になる。そして「なぜ昔の人はそんなこともわからなかったのか」と言われるようになる。それが5年後に起きていると思うんです。
だからこそ、私はいろいろな立場でさまざまな企業に関与しているんです。少なくとも自分が目の届く範囲では、すでにわかっている罠にはまらずに前に進める状況を作りたいんです。
「消える生産性」と「相対速度」の罠
――企業がAI活用を進める上で、特に注意すべき点はありますか。
「消える生産性」と「相対速度」という2つの概念が重要です。
まず「消える生産性」。多くの企業で今起きているのは、AIを使って仕事を効率化して、ちょっと楽になった、ランチタイムが長くなった、早く帰れるようになったという状況です。従業員にはハッピーかもしれないけれども、本当に生産性が上がったのか というと、上がっていないんです。
効率化しても、その先の仕事の再定義をしないと、生産性は「消えて」しまう。チャットでAIとマンツーマンで指示確認をしているだけでは、あまり生産性は上がりません。自分の見ていないところも含めて、数十個のエージェントが並列で、かつあまり確認もせず自律的にどんどん進めていく。そういう状況がないと生産性は上がらないんです。
――単なる効率化では不十分だと。
そして、もう一つが「相対速度」の問題です。絶対速度というのは実際の時速、相対速度というのはみんなが走っている中でどれだけ差がついているかという相対的なスピードのことです。
AIは比較的用意ドンで、みんなが使える状態になっているわけです。そうなった時に、ちょっと便利だよねで絶対速度が上がったとしても、競合もみんな使えているので、競合の中でどれだけ前に進めているかという差の方が重要なんです。
例えば、普段なら30%コスト削減はめちゃくちゃすごいことです。だけど、みんなに用意ドンで与えられて競合も対応している時に30%削減できても、「それって普通ですよね」と言われたら、お客さんに選ばれないんです。
今、フルタイム換算でAIを160時間動かしっぱなしにするコストは十数万円ぐらい。エンジニアなら1人月100万ぐらいかかるタスクが、10分の1から5分の1になる。この使えている度合いが、明らかに事業の競争優位性を決めていきます。
日本社会の構造的課題とメンバーシップ雇用の活用
――AI時代における日本社会について、広木さんはどのような課題と可能性を見ていますか。
日本は今後、労働人口の減少が確実に進んでいきます。10年後、20年後には「8掛け社会」と言われる、現在と比べて8割しか労働人口がいない社会です。この中で、生産性向上は待ったなしの必須事項です。
このまま放置すると、どんどんやれることが減っていく。昔は電話で問い合わせたら親切に対応してくれた会社が、今は「ボタンを押して1、次に2、次に3」とたらい回しにされて、1時間待ってようやく電話ができる。これ、誰にとっても幸福じゃないんです。
でも、AIエージェントによって、この下がり続けるクオリティに対して問題解決する方向に一気に動く可能性がある。コールセンター対応、高齢者サポート、レガシーシステムの刷新。今まで「エンジニアが足りない」「直せない」と言っていたことが、AIでできるようになる。人手不足でジリ貧になっていく社会において、AIは福音のような存在なんです。
――ただ、雇用の問題も懸念されますね。
日本の雇用システムの特徴を理解する必要があります。アメリカは解雇が比較的自由で雇用の流動性が高い。不況になれば雇用が減り、好況になれば増える。この新陳代謝の「呼吸」のような作用によって、イノベーションや生産性向上が生まれます。日本はこの呼吸を作れずにいる。こうした結果なのか生産性がそれほど上がってこなかった。
でも、それを無理にアメリカのようにして、みんながハッピーかというと違うと思うんです。であれば、メンバーシップ雇用を前提にこの「呼吸」を再現する必要がある。企業内部で人材の循環を作り、構造変革で雇用を維持しながら、新しいことに挑戦させていく。
――具体的には?
日本のメンバーシップ雇用では、「明日から北海道ね」と言われたら、結婚していても家のローンがあっても行っているわけでしょ。それに比べて「AIエージェントを勉強して、こういうことをしてください」と言われるのって、大したことないと思うんですよ。
もし雇用を維持するなら、経営者はこれを選んでいくべきです。流動性を上げてインフレさせると給料は二極化します。中間層が維持されて、いろいろなことに挑戦していく社会を選ぶのか。日本はまだどちらも選択していない、中途半端な状態です。でも企業単体では選べることなんです。
メンバーシップなのに新しいことをさせられない、ジョブ型なのに機動的な採用とレイオフができない。そういった中途半端ないいとこ取りをした結果、給与も上がらず生産性も上がらない。それは避けるべきだと思います。
企業が取るべき組織戦略 逆張りせず、配られたカードで勝負する
――企業として、具体的にどのような組織戦略を取るべきでしょうか。
人事や経営層の方々には、「逆張り」をしないことをお勧めします。若い頃は私も逆張り的な発想をしていました。「紙がデジタル化されない要素もある」というのは事実ですけど、だからといって今、紙の書店をやればいいという話にはならない。逆張りすればするほど逆風の中でやらなければならないので大変です。
世の中に順張りの情報が増えると「ちょっとやだな」と思いがちです。ただ、その変化を真っ向から受け入れて「やりきるしかない」と思えた会社にしか、活路はないんです。
私が高校時代、まだパソコンが普及していない頃にパソコンを使っていろいろなものを作っていたら、「パソコンがなかったらどうするの?」と言われました。今、その問いに何の意味があるでしょうか。世の中にはパソコンが当たり前になって、パソコンの先で何を作るかが問題になった。それをどう使いこなすか以外に活路はなかったわけです。
――そして世の中はそう変化していった。
同じことがAIでも起こると思っています。今、私はAIを使い倒していて、「AIがなかったら困る」という状態です。でもそれは、早めに「困る」ところまで使い倒しているからなんです。
配られたカードが変わったから、その条件下で自分を変えなきゃいけない。コーディングだって自分でやればやれるけど、今は逆に自分でコーディングしない縛りの方が重要だと思います。自分でやる前提で考えると、AIにさせる幅や考え方がわからなくなってしまう。
配られたカードで何かをしていくにあたって、逆張りしようとするのは、ショートポジションで儲けようとするぐらい危ない。普通に投資するなら、ロングで持っていればいい。インデックスで超長期で持っていたら結局はその方が儲かるという話と同じです。
長期で勝つというのは、AIが浸透している世の中が変化して、それによって働き方が変わり、それを前提とした仕事の仕方が当たり前になる。このロングポジションが正しそうじゃないですか。多くの人は、そういうことを取った方がいいと思いますね。
高畑勲監督に学ぶ、AI時代の創造性
――AIを使いこなすために、個人はどのような能力を身につけるべきでしょうか。
よく例に出すのが、高畑勲監督です。『かぐや姫の物語』など名作を作られた方ですが、宮崎駿監督と違って高畑監督は絵が描けないんですね。
絵が描けない。けれども、アニメーション監督としての彼のクリエイティビティや能力を疑う人はいない。つまり、絵が描けなくても、表現したいものをちゃんとイメージし、他の人に指示し協働していけば、大きなクリエイティビティを生み出せる。そういう技法は今まで存在してきたわけです。
今、それが私たちに開かれてきている。高畑さんは数十億円を使って作品を作られていましたが、これがどんどんコストダウンしていく。そうすると、あなたに高畑さん並みのビジョンや才能が与えられて、『かぐや姫の物語』が作れますか、という問いが私たちに返ってくるわけです。
私自身、400ページ分の書籍を書くだけの言いたいことや考えを持っているし、完成形がイメージできているから1ヶ月で校了できた。これと同じように、私たちもちゃんと十分に構想して考えて、伝えたいことや成し遂げたいことを構築し続けないと、AIが処理すべきものがなくなるんですよね。
無限にAIを働かせ続けるだけの意志、やりたいこと、表現したいもの、成し遂げたいことを生み出し続けないと、AIを動かせない。この原動力が私たちの中に存在していて、このエネルギー源をうまく活用して知識に変えていくことができないと、競争力が低いものになってしまうと思っています。
AI時代に求められる「3つのC」
――具体的に、どのような能力が求められるのでしょうか。
私は「3つのC」という概念を提唱しています。クラフト、コンセプト、コミュニケーションの3つです。
まず「クラフト」。現状ある技術に対する手触りとして、何がどこまでできて、実際に手を動かして把握する力です。これがないと全部机上の空論になる。スマートフォンが出てきた時、スマホを触っていない人のスマホ企画なんて大したことはないので、触らないと仕方ないですよね。新しい時代の中で何がどこまでできるのか、勘所が強く要求されます。
第2に「コンセプト」。どういう問題を解決したいのか、何が課題でどのように解決していくのかについて、明確なコンセプトを持てること。これがないと、駆動するエネルギーが生まれません。
第3に「コミュニケーション」。AIを通じて多くのことが動かせるようになった時に、多くの人とコミュニケーションを取って問題解決していく力です。
この3つが強く求められる状況になっていて、企業の人材評価や採用でより重視されることになってくると思います。
――そして、仕事そのものの再定義も必要になると。
ジョブクラフティングという概念があります。自分自身の仕事を再定義する能力のことです。与えられたものをそのままやっているだけだと、つまらなくなるし作業になる。作業員はリプレースされやすい存在です。
自分の仕事はどういう意義を持っていて、どう再定義すると面白くなるのか。今は与えてくれる仕事自体がAIネイティブじゃない可能性がある中で、ネイティブな仕事の形に自分たちの仕事を再定義する必要があるんです。
生産性格差の拡大と人材評価の変革
――AI時代には、人材評価の考え方も変わってくるのでしょうか。
1人が10倍、20倍になる時代です。この生産性格差って、今まであまり意識されていなかったと思います。Aさんを取るかBさんを取るか、生産性が1.5倍違うのか10倍違うのかで、高い方を選ばないといけないし、高い方に高い給料を払っていかないといけない。
これが、これからの人事設計で避けて通れないところです。AI活用という表面的なスキルの話ではなく、どうやったら多くの知性を同時に駆動できる思考力や、コンセプトを作る力が、大きな差となってくる。
この差が生まれてくる人材をちゃんと活躍させられる、対応できる、育てられる。こういったところが、組織として切っても切れない論点になるんですよね。
マクロとミクロ 個人の幸福と社会の変化
――AIやグローバル競争といった大きな変化の中で、個人はどう考えればいいでしょうか。
マクロとミクロを分けて考えることが重要です。日本全体のマクロな話が、本当に私たち一人ひとりの幸福につながるか。それは全く別の話なんですよね。
例えば、北米でビッグテックがレイオフをしたというニュース。レイオフされた人々にとっては、ショックな出来事ですが、これは本当に皆さん一人一人にとって不幸ですか。全然不幸ではなくて、ある会社にとっては優秀な人材を採用するチャンスかもしれない。
労働人口が減るという話は、日本全体の競争優位性は下がるかもしれないけれど、若者個人にとっては、少ない労働人口の中から選ばれなければいけないので、単価が上がるかもしれないということです。
マクロに連動してかならずしもミクロが決定されるわけじゃない。だから、自分たちがどう生きるかを主体的に選択していく必要がある。外から人が入ってくることを防ごうとしたり、世代間対立を煽ったり、そういうのは不毛でみんなが不幸になっていく道です。テクノロジーが出始めている今、私たち個人個人は何ができるのか、どういうアプローチができるのかという考えに向かっていくことが大事です。
デジタル主権と一人当たりGDPの視点
――国家レベルでの戦略については、どうお考えですか。
今、世界に存在するフルタイム換算のAI労働力って1,000万人規模ぐらいです。ここからいろいろ投資されて、投資規模が上がっていくと1億人、10億人となってくる。その時、日本国内に何人分のAI労働力を持っていますか、というのが重要です。
これはいわば、ロボットも含めて、ドラえもんのような能力を備えた「ドラえもん人口」を、日本は何人国産で抱えられるか、という問題です。それがちゃんと増えていかないと、総合的な国力として国富がずっと流出していく状態になってしまう。
一事業者として国産AIだけを使うかみたいな話は単純に個々の経済合理性の中で考えたらいいけれど、国としてどうリードするかというと、大きなビックテックへの規制を行うとか、逆に解雇規制を全く取っ払ってしまうとかさざまなアグレッシブなアプローチはあると思います。しかし、いきなり流動性のある社会にしたところで人々は対応できないんですよね。もっと別のアプローチを取る必要があるとは思います。しかし、私は国全体の競争力維持のために国民一人一人にとって不幸が生まれるハードランディングすることには賛成していません。
――経済競争力を一番の目的にしない、と。
日本全体のGDPを大きくすることを一番にすることが目的という考え方は、あまり意味がないと思っています。人口が減っていくので経済規模は下がる。ですが、一人当たりGDPをあげられればそれでよい。
一人当たりが十分にGDPがあって幸せだったら、それは幸せな国になるでしょう。人口が減っても、企業や資産がいきなり消えるわけじゃない。人口が減る速度よりGDPが減る速度の方が遅いし、GDPは緩やかに成長していくから、人が減った分だけ一人当たりのGDPは増えるはずなんですよ。
だから、ちゃんと自分を中心にミクロなところを見て、相対的に自分たちのポジションに起こることを考えていく。一人一人の幸福がマクロに連動するわけでもないし、マクロに連動してミクロが変化するわけでもない。その中で自分たちがどう生きるのかを主体的に選択していく必要があるんです。
未来への展望 主体的な選択の重要性
――最後に、今後の社会に対する展望をお聞かせください。
私が伝えたいのは、認識をちゃんと改めることの重要性です。AIエージェント時代への認識を正しく持つことが、まず第一歩です。社会の変化や人の変化は不可逆なものとして受け入れる必要がある。
それは、人間の良さが云々という話の前に、そもそも社会はこう変わっていくのだという前提に立つこと。その上で「じゃあ、自分たちはどうするんだ」というところに立たないと、うまく対処できません。
これから若い人たちは、よくわからないことだけどAIに聞きながら専門家顔負けのレベルでやるという経験をしていく。その中で失敗も成功もする。そういうのを見ている中で、AIエージェントネイティブな人たちから見て、皆さんは老害扱いされずに済むでしょうか、というのが、ここから10年間ぐらいをかけて起きていく考え方の変化なんです。
――経営層や人事責任者の方々へのメッセージをお願いします。
変化を恐れないでください。そして逆張りをしないでください。「配られたカード」で勝負するという発想が重要です。
日本の雇用システムには、メンバーシップ雇用という強みがあります。これを活かして、企業内部で人材の循環を作り、新しいことに挑戦させていく。「AIエージェントを勉強して、こういうことをしてください」と言うことは、かつて「明日から北海道ね」と言っていたことに比べれば、大したことではないはずです。
繰り返しになりますが、まとめますね。
AIは、人手不足でクオリティが下がり続ける社会に対する福音です。それを活用できずに分断が煽られたり、世代間対立を起こしたりするのは不毛です。みんなが不幸になっていく道を選ぶのではなく、テクノロジーが出始めているこの状況で、私たちは何ができるのか、どういうアプローチができるのかに向かっていくべきです。
そして忘れてはいけないのは、マクロとミクロは別だということ。日本全体のGDPの国際順位は下がるかもしれないという話と、一人ひとりの幸福や成功は、必ずしも連動しません。若い人たちにとって、労働人口が減ることは、選ばれる母数が減ることでもあり、単価が上がる可能性もあるんです。
主体的に自分たちがどう生きるかを選択していくこと。配られたカードで、ロングポジションを取ること。これが、これからの時代を生きる上で最も重要な姿勢だと考えています。
編集後記
広木氏が繰り返し強調したのは、「歴史は繰り返される」ということでした。スマートフォン登場時と同様の変革期にある今、私たちは過去の教訓から学ぶことができます。
特に印象的だったのは、「消える生産性」と「相対速度」という概念です。単なる効率化では意味がなく、競合との相対的な位置関係が重要になる。フルタイム換算のAIコストが十数万円で、人件費の10分の1から5分の1という劇的なコスト削減が可能になっている今、この活用度合いが企業の競争優位性を決定づけます。
また、高畑勲監督の例は、AI時代の創造性を考える上で示唆に富んでいます。絵が描けなくても『かぐや姫の物語』を生み出せた監督のように、私たちも「表現したいもの」「成し遂げたいこと」を持ち続けることが、AIを動かし続けるエネルギー源になるのです。
「3つのC」(クラフト、コンセプト、コミュニケーション)という明確なフレームワークも提示され、これからの時代に求められる能力が具体化されました。そして、1人が10倍、20倍の生産性を発揮できる時代において、人材評価と報酬体系の抜本的な見直しが不可避であることも示唆されました。
AIエージェント時代は、単なる効率化のツールとしてではなく、日本社会が抱える労働人口減少という構造的課題に対する解決策として捉えるべきなのでしょう。変化を恐れず、しかし無謀な逆張りもせず、日本の雇用システムの強みを活かしながら前に進む。その具体的な道筋を、本インタビューは示してくれているといえます。
AIエージェント時代に備えるために
本インタビューでも度々言及されている広木大地氏の新著『AIエージェント 人類と協働する機械』(リックテレコム)はこちらからご確認いただけます。
内容紹介
プログラミングの終わりと新しいエンジニアリングの始まりと言える今、「人類と協働する機械」、AIエージェントをどう捉えて共存していくかを問います。本書で扱う核心的問いとして次の3つが挙げられます。 「AIによって仕事は奪われるのか」「AI時代の生産性をどう考えるべきか」「AI時代に何を作ることが価値になるのか」。 著者と共に本書を通じてAIエージェントと社会の今後を見通します。
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